『文検漢文科合格秘訣』


 いつも拝見している、まっつんさんのサイト「積読日記」のリンクに、「文検漢文科合格秘訣」なる書物が紹介されています。まっつんさんの解説を引用させていただきます。

本書は昭和6年に刊行された『文検漢文科合格の秘訣』(笠松彬雄 著)を興味半分に抜粋したものである。文検とは、旧教員採用検定で、現代には全く不要のものである。しかし、本書の中で、著者が熱く合格に向けて叱咤激励している様は非常に興味深い。明治・大正を過ぎ、やや漢文の必要性が薄くなりかけている時代(現代からみれば全くそんなことはないのだが)に、教員資格取得のためとはいえ、まさしく人生を賭して漢文の勉強に向かう姿は凄い。当時の様子も伺われるし、何より当時では著者が本書の中で真面目に語ったであろう言葉のひとつひとつも、平成の現代に生きる我々には冗談としか思えないような記述もある。‥‥。偶然ある古書店にて300円で手にした本書であり、また「実用性」といった面からすれば全く皆無な本書をあえて皆さんの目に触れるような形にしたのは、現代忘れ去られている、いや、忌み嫌われている「努力」だとか「根性」というものを多少なりとも呼び起こしてくれそうな気配があったからである。

 この本、まだ見たことがないのですが、まっつんさんが紹介されている内容を読むと、非常に面白い。上記の解説に書かれているとおり、この本の最大の特色は、読者、すなわち文検漢文科の受験生を鼓舞し、激励する熱いことばです。「現今の人々に欠乏して居る物は熱である!」、何とまあ、平成時代の我々に向けられたことばとしか、思えませんよ。

 さらに面白いことに、記憶術についての記述もあります。

 記憶にはよく了解して秩序的に記憶するのと、無茶苦茶であるが兎に角丸暗記するのとがある。即ち機械的の記憶である。これは何の連絡も無いものを記憶するので忘れ易いものである。この忘れ易いのを防ぐ為に聯想を利用して順序立てて記憶する方法を取るとよい。その方法は、先づ自分の家を出発点として西の方向へなり東の方向へなり、隣家を数えて一二三四五…二十位まで順番を作る。そして八番と言えばその八番に当った家が眼前に浮ぶ様に何回もこれを練習する。十五番はどの家、十番は誰の家と言う練習が出来たら、その家の一二三四回となって居る順序に結びつけて記憶して行くのである。
 今八代集を記憶するとする。
 自分の家―紀伊の国(私の郷里は和歌山)であるから紀貫之を思い出し、その友の紀友則に連絡する。これが古今集。
 一軒隣―大きい梨の木があるので、梨壷の五歌仙を聯想する。古今集より後に撰ばれたから後撰集。
 二軒隣―椿の花の美しく咲く家だ。それで花山院を思い出し、子供等がよくその落椿を拾い集めて遊んで居るから拾遺集と覚える。
 三軒隣―二軒目の直ぐ隣であるから拾遺集とは関係があって即ち後拾遺集である。
 四軒隣―葉鶏頭をよく作る家だから葉が金色に光って居て金葉集だ。この家に老人があるから俊頼(としより)の編だと覚える。
 五軒隣―辨口が伸々上手な内儀だから詞葉集。
 六軒隣―剽軽者(ひょうきんもの)の居る家でよく万歳の真似などして居るから万歳ならぬ千載集と記憶する。
 七軒隣―新古今、恰度自分の家の分家に当るので面白いことには古今集からの分家の新古今となる。
 これは私の記憶して居るほんの一例に過ぎないが、文学史は皆此の方法で秩序立てる。従って年代順に人物を並べることなんかは易々たるものである。 (第五章、「研究法」より)

 先日、このブログで紹介した、「ローマ人の部屋」とほとんど同じ記憶術です。実に興味深く感じられます。

 笠松彬雄『文検漢文科合格秘訣』大同館書店、昭和6年。

 *Webcatの所蔵館は、なんと0館。紛れもない稀覯本です。増上寺の隣にある三康図書館に、大同館が出版した「文検」受験シリーズがまとめて所蔵されているようです。何かのついでに見に行こうと思っています。

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「『文検漢文科合格秘訣』」への2件のフィードバック

  1. 七夕ということで、久さんがいつまでも刺激的な毎日を送り、笑って暮らすことができますよう、陰ながらお祈りしております。

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