姚名達、第三の目録学研究書


姚名達(1905-1942)の目録学研究をこれまでも何度か取り上げており、『目録學』と『中國目録學史』についてはすでにお話ししました。

『目録學』と『中國目録學史』の両書を書いた後、姚名達はもう一冊、目録学研究を編集しています。姚名達『中國目録學年表』(商務印書館,國學小叢書,1940)が、それです。

時系列に沿って並べると次のようになります。

  • 1932年 上海事変で商務印書館が被災。姚名達の原稿がすべて焼失。
  • 1933年 姚名達『目録學』(商務印書館,萬有文庫)。
  • 1938年 姚名達『中國目録學史』(商務印書館,中國文化史叢書)。
  • 1940年 姚名達『中國目録學年表』(商務印書館,國學小叢書) 。

姚名達は、学術史を年表のかたちで示すことはきわめて効果的であると信じていました。『中國目録學年表』の序文には、次のようにあります。

 年表の用は、学術史中に在りて尤も顕たり! 蓋し時を同じくして並存すれば、則ち彼と此との交光互影は、一望にして知るべく、先後順序すれば、則ち古今の淵源流派は、参考すること得べし。……。著作の成毀、学者の生平を挙凡せば、学術と関有るの時事は、年月を按じて之を序列すべからざる莫し。之を小にせば則ち一人一書の出没を考すべく、之を大にせば則ち一時一代の大勢を悟るべし。学術の年表有るは、其れ猶お簿記の日記帳有るがごときか。

姚名達自身は年表の起源を『史記』の「十二諸侯年表」に求めていますが、政治ならぬ学術を年表に仕立てようとは、創意工夫にあふれた姚名達らしい発想です。その内容については、あらためて書いてみたいと思います。

*姚名達『中國目録學年表』(商務印書館,國學小叢書,1940) Webcat所蔵図書館 8館(本日付)。
*姚名達『中國目録學年表』(臺灣商務印書館, 人人文庫,1967. 臺1版) Webcat所蔵図書館 7館(本日付)。
*姚名達『中國目録學年表』(臺灣商務印書館, 人人文庫,1971. 臺2版) Webcat所蔵図書館 4館(本日付)。 私の使っているのは、この版です。

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筆名大王のこと


 近代中国の人物について調べようとするとき、私が真っ先に見るのは、陳玉堂『中国近現代人物名号大辞典』(浙江古籍出版社、1993年)です。

 中国の伝統的な文人は、自称・他称を含め、さまざまな呼称を持っています。なかでも号などというのは、なかなか調べにくいものです。

 清朝の人物については、楊廷福・楊同甫編『清人室名別称字号索引』(上海古籍出版社、1988年)がよく使われます。しかしこの書物は、単にそれぞれの個人の本籍・アザナ・号・別称・室名などを表にしているに過ぎません。使いようはありますが、限られています。

 一方の『中国近現代人物名号大辞典』は、本籍・アザナ・号・別称・室名以外に、生卒年・幼名・略歴・著書・親族などを網羅的に挙げています。しかも、号などがいつどこで使用されたのか、周到に根拠を挙げてあります。

 たとえば黄侃(1886,一作1887-1935)に異名が多いのは有名ですが、『中国近現代人物名号大辞典』によると、次のように列挙できます(根拠は省略します)。

 幼名:緒琳
 譜名:喬馨
 学名:喬鼐
 字:季剛
 早字:梅君
 又字:禾子・季子・季康
 号:運甓・運甓生
 別署・筆名:曠処士・病蝉・病禅・剛翁・不侫・鼎苹・鼎革・鼎莘・奇恣・奇談・信川・静婉・盛唐山民・黄十公子・亦陶・量守居士・寄勤閑室主人
 室名:六祝齋・雲悲海思廬・仰山堂・橋秀庵・寄勤閑室・量守廬・感鞠廬・楚秀庵・?秋室・?秋華・?華室・?秋華室

 まあ、この調子で一万人以上の人を調べ上げているわけです。「作者簡介」によると、「陳玉堂、アザナは書石、別号は紫琅山民・百盂齋主。1924年生まれ。江蘇南通の人。上海社会科学院文学研究所副研究員、九三学社社員。長きにわたり中国近現代の人物伝記資料及び別名・筆名の蒐集と研究に従事し、「筆名大王」の誉れを有する」云々とあります(より詳しくは、こちらから)。すごい執念を感じます。

 この書物はたいへんに便利なものなので、私は「大王、大王」と敬愛して止みません。増訂版が出ていますが、旧版を愛するあまり、なかなか新版に乗り換えられません。

*『中國近現代人物名號大辭典』(浙江古籍出版社、1993) Webcat所蔵図書館 65館(本日付)。

*『中國近現代人物名號大辭典』(浙江古籍出版社、全編増訂本、2005) Webcat所蔵図書館 28館(本日付)。

人名辞書


長らく休んでおりました。今日からまた再開いたしますので、よろしくお付き合いのほど、お願いいたします。

さて、その間、ある出版社から人名辞典の項目執筆を依頼されました。計11項目。

  • 彭元瑞(ほうげんずい/Peng Yuanrui)(1731-1803)
  • 呉騫(ごけん/Wu Qian)(1733-1813)
  • 陳鱣(ちんせん/Chen Zhan)(1753-1817)
  • 銭泰吉(せんたいきつ/Qian Taiji)(1791-1863)
  • 章鈺(しょうぎょく/Zhang Yu)(1865-1937)
  • 傅増湘(ふぞうしょう/Fu Zengxiang)(1872-1950)
  • 余嘉錫(よかしゃく/Yu Jiaxi)(1884-1955)
  • 陳乃乾(ちんだいけん/Chen Naiqian)(1896-1971)
  • 王重民(おうじゅうみん/Wang Zhongmin)(1903-1975)
  • 趙万里(ちょうばんり/Zhao Wanli)(1905-1980)
  • 張秀民(ちょうしゅうみん/Zhang Xiumin)(1908-2006)

清朝から民国時代・現代にかけての文献学者が多くて嬉しいのですが、ずいぶんマニアックな名簿となりました。文献学者としては一流から一流半といったところの人々でありながら、現在の日本で名を知られている人は、多くない、といった印象です。

彼らのために気を吐き、文献学を盛り立てる意味もこめて、よい記事を書きたいものです。このブログ「学退筆談」の内容ともよく合いますので、ブログのエントリーにも積極的に取りあげていきたいと思っています。

休暇


大西洋 勝手ながら、しばらくの間、更新をお休みさせてください。
 今月末には平常に復しますので、またその時はお願いします。
 まっつんさんのブログ「積読(つんどく)日記」にコメントして、次のように書かせてもらいました

 ブログ「学退筆談」を始めたのも、ひとつには「目録学の楽しみを知ってもらいたい!」と思ってのことでした。
 目録学は古い学問なので、どうしてもお経を唱えるみたいになってしまうんですよね。何とか、「退屈しない」目録学、しかも「役に立つ」目録学を構築したいものです。

 一月ほど、目録学に思いをめぐらせてみようと考えています。

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