『訓詁学綱要』


 中国古典を読む際には、さまざまな知識や方法が必要とされます。必要とされるものが多すぎて、目がくらむほどです。そのような時によいのが、中国から出版されている概説書で基礎を学ぶことです。

 ただ、概説書も玉石混淆なので、よいものを選ぶ必要があります。訓詁学の概説書で私がよいと思ったのは、趙振鐸『訓詁学綱要』(陝西人民出版社, 1987)というものです。

 概説書の多くは、中国の大学で教科書として使われるものなのですが、往々にして無味乾燥で、その学問がどう役立つのか、読んでも分からないことがあります。しかし、この『訓詁学綱要』は、たいへん実用的な訓詁学の概説です。実用的というのは、訓詁学を読書にどう役立てればよいのか、読めば分かるということです。全体の構成は次の通り(括弧内は、私の説明)。

  • 第1章 導言
  • 第2章 訓詁的流別和体制(訓詁の種類、注釈と辞書)
  • 第3章 訓詁用語
  • 第4章 以形索義(字形から考える)
  • 第5章 因声求義(音韻から考える)
  • 第6章 古音通假
  • 第7章 義訓的一些方法(義を導く方法)
  • 第8章 釈義的方法(さまざまな説明方法)
  • 第9章 同訓(同義語・類義語)
  • 第10章 反訓(反義語)
  • 第11章 詞義的引申(派生義)
  • 第12章 訳語(西域・インドからの外来語)
  • 第13章 古書辞例挙要(修辞の説明)
  • 第14章 結束語

 訓詁学の定義、重要性などは、第1章で述べられていますが、そうした「能書き」は、あっさりとしたものです。第2章以降は、訓詁の実態に即して、多様な観点から説明がなされています。

 特に、第3章では、「也」「者」「曰・為・謂之」「謂」「言・此言・言此者」「貌」「所以」「猶」「読若・読如」「読為・読曰」「之言」「辞・詞」といった訓詁で常用される用語について、逐一、例を挙げつつ、説明しています。

 挙げられている例は、『詩経』をはじめとする古典の注釈や、『爾雅』といった古辞書類で、まさに訓詁の王道であり、しかも、それらを解釈した顧炎武や段玉裁といった清朝の学者たちの説を丁寧に紹介しています。私は大学院生のころ、この書物を読みましたが、初学者が訓詁の実態を知るにはもってこいでした。

 辞書の定義のようなものばかりが訓詁学ではないのです。音韻学と訓詁学との連携を述べた第5章・6章、外来語の取り扱いを述べた第12章、修辞の問題にまで及ぶ第13章など、中国語全体の中で、訓詁がどのように機能しているのかを考えさせる内容ともなっています。

 著者の趙振鐸氏は1928年生まれ。四川大学で長年にわたり教鞭をとり、『漢語大字典』の編者の一人でもあります。本書の「後記」によると、1979年に四川大学で担当した訓詁学の講義をもとにして、改訂を加えたもの、とのことです。

*趙振鐸『訓詁学綱要』(陝西人民出版社, 1987)Webcat所蔵図書館 11館

広告

「『訓詁学綱要』」への10件のフィードバック

  1. 第二章「訓詁的流別和体制」に書いてあるのは、訓詁の種類には、注釈・辞書・読書筆記があるということです。
    この書物、図書館などで見ることが出来ますか?ご必要なら、お貸しします。

  2. 最近線引きしたりボンドで貼ったりとか本の扱いが荒いので、御借りしてもよごしそうな気がします…。図書館で見れそうですのでそれで勉強してみます。

  3. 初学者にもお薦めのようなので、早速入手しました。まだ、第3章の半分ぐらいを読んだだけですが、常用語の説明のところは「解釈される詞」と「解釈する詞」の指摘が明確で、初学者にも分りやすい内容でした。ご紹介有難うございました。

  4. 読み終わるには結構かかりそうで、初心者脱出はまだまだ先のことのようです。気長に頑張りたいと思います。私は古書を入手しましたが、以下のように、この本の修訂本が出ていたようです。お知らせまで。
     訓詁學綱要(修訂本) 精装
     趙振鐸
     出版社:巴蜀书社
     出版年:2003年10月
     ISBN/ISSN 7-80659-496-5

  5. Hirshさま、ご教示、ありがとうございます。そうですか、修訂本が出ていましたか。新しく買われる方は、これの方が良さそうですね。
    ただし、一般論としていうと、中国書の場合、修訂は部分的なので、あえて買い直す必要はほとんどないようです。私は「買い直してよかった」と思った経験は一度もありませんので。

  6. 先日修訂本手に入れました。読むのに苦労しそうな感じがします。Hirshさまお教え頂きありがとうございました。先生もご紹介ありがとうございました。いま読もうとしております。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中