『辞源通考』


田忠侠氏(1938-)の『辞源』研究は、『辞源考訂』(東北師範大学出版社,1989)、『辞源続考』(黒龍江人民出版社,1992)の二書を経て、『辞源通考』(福建人民出版社,2002)へと結実しました。

 第一の『辞源考訂』で指摘された『辞源』の問題点は、1103点。
第二の『辞源続考』では、1722点。
第三の『辞源通考』では、7175点。

このうち最も新しい『辞源通考』は、前二書の成果を取り入れ、新たに4350点の考証を加えて、集大成としたものです。

田氏の方法は、『辞源』の誤りや不適切な部分を指摘し、入念に検討するというものです。「これを愛することいよいよ深く、これに求むることいよいよ切なり」(『辞源通考』緒論)というわけで、愛するがゆえのことです。問題の条数は7175条ですが、まとめていうと次の15点、とのことです。

  1. 「立目失当」。立項が不適切。
  2. 「音項残缺、致音義不符」。音の項目が欠けており、音と義とが符合しない。
  3. 「釈義欠妥」。釈義が適切でない。
  4. 「釈義不全、或義項闕失」。釈義が完全でない、あるいは義の項目が欠けている。
  5. 「徒挙書証、或概述典故、而失注語義」。ただ書証を挙げたり、あるいは典故を大体述べるだけで、語義の説明がない。
  6. 「溯未及源」。源にまで溯っていない。
  7. 「書証与詞目、釈義不相応」。書証と詞目、釈義とが符合していない。
  8. 「書証時代、作者、書名、巻次、篇目誤称」。書証の時代・作者・署名・巻次・篇目が誤っている。
  9. 「妄改古書、強経合己、不務我注六経、乃欲六経注我」。勝手に古書を改め、本文を自分に合わせて、自分が書物に注釈するのでなく、書物の方が自分に注するような態度をとっている。
  10. 「書証引文不確」。書証の引文が不正確。
  11. 「引書軽視虚詞、時或奪誤」。書物を引用する際、虚詞を軽視し、時として誤りがある。
  12. 「引古書誤施標点」。古書を引用する際、誤って標点を施している。
  13. 「行文失于縝密」。文章が緻密さを欠く。
  14. 「釈文体例不一、亟待厳明」。釈文の体例が一貫しておらず、すぐにも厳格化・明確化する必要がある。
  15. 「技術失誤」。技術上の過誤。

これだけの数の「誤り」があるとすると、『辞源』とはたいへん問題の多い辞書なのではないか、と思われるかもしれません。しかし、それは本書『辞源通考』を見ていただければ分かることですが、すべてが『辞源』の誤りというようなものではなく、むしろ、中国文献学の豊穣さゆえ、多くの問題が潜んでいることを浮き彫りにしていると思われます。

田氏の考証も、すべてが絶対に正しいというわけにもいかぬようですが、これほど多くの問題点を指摘できるだけでも、特異な才能と言うべきでしょう。

*『辞源考訂』(東北師範大学出版社, 1989) Webcat所蔵図書館は11館。
*『辞源続考』(黒龍江人民出版社, 1992) Webcat所蔵図書館は28館。
*『辞源通考』(福建人民出版社, 2002) Webcat所蔵図書館は12館。


田忠侠氏は、4冊本の『辞源』に基づいて考証を書き、しかもその冊数とページ数を明記しています。
『辞源通考』を本格的に利用しようとすると、4冊本を手元に置いた方が便利かもしれません。以前に申した通り、私は4冊本を持っていないのですが。

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