虚詞の辞典


文言文を学ぶとき、虚詞(虚字とも)の学習が必要であると、よく説かれます。必要である理由を、思いつくままに挙げてみましょう。

  1. 韻文・散文を問わず、非常に高い頻度で文中にあらわれる。特定の一文字について言うと、実詞(名詞・数詞・動詞・形容詞)のそれと比較した場合、非常に高い頻度で登場します。
  2. 虚詞こそが、文の細かい表情を決定する。訓読ですますわけにゆかないゆえんです。
  3. 意味・用法が多岐にわたり、複雑であり、時代的な変遷も大きい。虚詞の辞書が必要です。

このように、虚詞の学習は特に必要なのですが、以前、別サイト「文言基礎」で『千字文』を読んだ際には、この問題にはほとんど触れませんでした。これには訳があります。『千字文』は、「重複しない千字を用いて韻文を作る」方針に貫かれていますので、他の文と比較して、極端に虚詞が少ないのです。それゆえ、虚詞の学習のためには、よい教材であるとは到底言えません。そこで、『千字文』学習中は、この問題に触れませんでした。

では、どのように虚詞を学べばよいのか。基本的には、ご自分の興味に従って(または演習の準備であってもよいのですが)文言文を読み進め、虚詞に気づいたら、こまめに虚詞の辞典を調べることです。その説明をよく読んで、特に用法に注意する必要があります。

ただ世の中には、非常に多くの文言虚詞の辞書が存在します。私もあれこれ購入し、試行錯誤しました。書棚の整理を兼ねて、主なものを分類してみます。

  1. 古典的虚詞辞典(経書・先秦諸子を読むため) 劉淇『助字辨略』。王引之『経伝釈詞』。呉昌瑩『経詞衍釈』。
  2. 詩文(読解・作文)のための虚詞辞典 張相『詩詞曲語辞匯釈』。王鍈『詩詞曲語辞例釈』。
  3. 俗語などを読むための虚詞辞典 蒋礼鴻『敦煌変文字義通釈』。江藍生『魏晋南北朝小説詞語匯釈』。王雲路・方一新『中古漢語語詞例釋』。『唐五代語言詞典』『宋語言詞典』『元語言詞典』。他にも多数ありますが、よく知らないので省きます。
  4. 汎用的虚詞辞典 楊樹達『詞詮』。裴学海『古書虚字集釈』。韓崢嶸『古漢語虚詞手册』。何楽士『文言虚詞浅釈』。何楽士『古代漢語虚詞通釈』。中国社会科学院語言研究所古代漢語研究室『古代漢語虚詞詞典』。

しばしば虚詞の重要性について語られはするものの、ただ、これらの工具を上手に使いこなしている方はあまり多くないようです。読んでいる書物と、使っている虚詞辞典が合わないことが、一つの問題点であろうと思います。『経伝釈詞』は経書を読むためには非常によい手引きですが、詩を作ろうという人が使っては間尺に合いません。同様に、特殊な口語的表現を一般用の虚詞辞典で調べたところで、載ってはいません。

なお、上記の『助字辨略』『経伝釈詞』『詞詮』などを再編集してまとめた、『虚詞詁林』、『古書虚詞通解』というものがあります。便利な書物ではありますが、相当慣れた人(それぞれの虚詞辞典の個性を把握して使いこなしている人)でないと、とても御せるものではありません。

一般的な工具書として、一冊だけ推薦するなら、中国社会科学院『古代漢語虚詞詞典』(商務印書館、1999年)を挙げます。現代的で、なかなかうまく編輯されていると思います。後は対象とする文献に応じて、他のものをご参照下さい。


〔追記〕
私が習った頃には、楊樹達・裴学海を推奨する先生が多かったように記憶しています。しかし、使ってみればすぐに分かりますが、新しいものの方が、はるかに使いやすくできていますから、現在お求めになるならば、新しいものの方がよいと思います。
それにしても、私の推薦する工具書は、『新華字典』といい、『辞源』といい、この『古代漢語虚詞詞典』といい、いずれも商務印書館のものばかりですね。別に商務の社員でも関係者でもありません。そういう知り合いさえいません。

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