ブックガイドとしての『読書雑志』第一章


 吉川忠夫『読書雑志-中国の史書と宗教をめぐる十二章』(岩波書店、2010)を導きとして、中国学の書物の林に踏み入ります。

 その第一章は「史書の伝統―『史記』から『帝王世紀』まで」。『史記』『漢書』『東観漢記』『古史考』『帝王世紀』といった、初期の史書を紹介したものです。初出は『しにか』6-4(1995)。

 まだ本書をお読みになっていない方に配慮し、内容をまとめることはせず、さっそく、本章に触発されて読んでみたくなる諸書をご紹介しましょう。

 まず『史記』太史公自序です。この「自序」は中国で最も有名な序文で、『史記』第一百三十篇として、その末尾に置かれています。文言文を自在に読みこなせる方は、中華書局の点校本を読んでいただけばよいのですが、「日本語で」という方は、次の訳書を。

小川環樹・今鷹真・福島吉彦訳『史記列伝』1-5、岩波書店、岩波文庫(青(33)-214-1-5)、1975。

 『史記』列伝、七十巻のうち、「扁鵲倉公列伝」「亀策列伝」を除く六十八巻を訳したものです。太史公自序はその第5冊目に収められています。

 「太史公自序」から、司馬談・司馬遷父子が史書撰述によせた、熱烈な使命感を知ることが出来るでしょう。

 史官の伝統を語り、本書には『左伝』宣公二年と襄公二十五年の記事への言及がありますので、これも読んでみます(二年分、読むわけです)。現代中国語訳としては、次のものが適当です。

沈玉成訳『左伝訳文』、中華書局、1981。

 この沈氏の訳本は、次の書物と併用できるので便利です。両方、併せて読めば、力がつきます。

楊伯峻『春秋左伝注』修訂本、中華書局、1990。

 日本語訳ならば、次のものを。これも楊伯峻の注本と併用可能です。

小倉芳彦訳『春秋左氏伝』上・中・下、岩波書店、岩波文庫、(青(33)-216-1,2,3)、1988。

 『漢書』は、班彪・班固の父子が作ったものですが、これをめぐっては、本書に引用される、『後漢書』の班彪伝・班固伝(列伝三十、上・下)を読みたいところです。日本語訳をということならば、次のものをお勧めします(高価ですから、図書館などでご覧になれば十分です)。

吉川忠夫訓注『後漢書』第1冊-別冊、岩波書店、2001。

 班彪伝・班固伝は、訓注本の第5冊に見えます。ただし、班固の伝に引かれている「両都賦」や「典引」は『文選』にも収められる名文ですが、何しろ長いので、挫折しないよう、ここでは読み飛ばす方が賢明でしょう。班固が死に至った経緯が書かれる伝の末尾は、哀れをさそいます。

 『東観漢記』『古史考』『帝王世紀』については、『隋書』経籍志を開いて確認したいところです。中華書局の点校本『隋書』を見てもよいですが、次の本はあると便利です(古い本なので、購入は難しいと思います)。

『新校漢書芸文志・新校隋書経籍志』世界書局、中国学術名著、1963。

 『隋書』経籍志で『帝王世紀』を探すと、史部の「雑史」の分類中にその名を見いだすことが出来ます。吉川氏は「正史の概念にはおよそなじまない性格の史書」と同書を解説しますが、それを実感できるのではないでしょうか。

 2点のみ、補わせていただきます。

 1.日本語訳は、いつか卒業しましょう。
 2.『史記』などの大部の書物や、『左伝』などの難読の書物を読むときは、全巻読破を目指すのではなく、一篇を読み終えることを目指しましょう。全巻読破は、読み終えること自体が目的化してしまいがちで、しかも挫折しやすいものです。

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「ブックガイドとしての『読書雑志』第一章」への4件のフィードバック

  1. 『史記』のように昔の書物が序文を最後に置くのはなにか特別な意味があるのでしょうか。巻物(だったのかわかりませんが…)に書くときに本文を書いた後に最初には加えられないからかとふと思ったのですが…

  2. 先秦・前漢の書物は竹簡であり、竹簡は編集が容易なので、それは理由になりません。そもそも、「序文を前に置く」という習慣がまったくなかったようです。内山直樹氏の一連の業績があります。池田秀三氏にも、「「序在書後」説の再検討」という論文がありますので、ご参照下さい。

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