ブックガイドとしての『読書雑志』第三章


 吉川忠夫『読書雑志-中国の史書と宗教をめぐる十二章』(岩波書店、2010)を導きとして、中国学の書物の林に踏み入ります。

 その第三章は「顔師古―班固の忠臣」。初出は日原利国編『中国思想史』上(ぺりかん社, 1987)です。

 『漢書』の注釈を書いて中国史上に名を残した顔師古(581-645)。代々儒者であった、彼の家族を描き、その中における顔師古の学問を語っています。

 まずは吉川氏が紹介する、顔師古の祖父、顔之推(531-?)の『顔氏家訓』を読みたいことろです。特に、「序致」「教子」「兄弟」「後娶」「治家」の諸篇と「勉学」篇を。原文で読まれる方には、以下のものをおすすめします。圧倒的な学識を誇る王利器氏の注もよいです。

王利器『顔氏家訓集解』増補本、中華書局(新編諸子集成第1輯)、1993。

 日本語訳ならば、以下のものを。

森三樹三郎・宇都宮清吉訳『世説新語・顔氏家訓』平凡社(中国古典文学大系)、1969。東洋文庫版もあります。

 眼目の『漢書』注は、やはり、原文を読むしかありません。中華書局本の第一冊に「漢書叙例」がありますから、ご覧下さい。長いものではありません。吉川氏が引く「近代注史,競為該博,多引雜説,攻撃本文」の文句も見えます。

 顔師古のもう一つの著作である『匡謬正俗』を読むとすると、次の注釈がよい出来です。

劉曉東『匡謬正俗平議』山東大學出版社、1999。

 たとえば、『詩経』や『礼記』に見える「衡」字に関する考証がその巻一にあります。徐邈という学者が「衡の音は横」というのに対し、「衡即横也,而徐氏並音為横,皆失之矣」と顔師古はケチをつけます。「不勞借音」と似た言いまわしが、『漢書』注の鼂錯伝・賈捐之伝・高帝紀などにも見えること、劉氏がつぶさに指摘しています。そこに、顔師古の個性をかいま見ることができます。

 なお、この章の記述は、吉川氏が書かれた二篇の学術論文がもとになっており、いずれも次の著書に収められています。

吉川忠夫『六朝精神史研究』同朋舎出版 (東洋史研究叢刊)、1984。 そのうちの第9章「顔之推論」と第10章「顔師古の『漢書』注」がそれに当たります。前者は、吉川氏の修士論文がもとになっているとのことです。


〔追記〕 もとの記事には間違いがありました。Chunxueさまのご指摘により、事実関係を訂正しました。詳しくはコメント欄をご覧下さい。Chunxueさまには厚く御礼申し上げます。

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「ブックガイドとしての『読書雑志』第三章」への3件のフィードバック

  1.  吉川先生の修士論文は、顔師古ではなく顔之推を対象とされたものであったと思います。そしてそれが『東洋史研究』二〇巻四号に「顔之推小論」(1962)となって発表され、それをもとに書き改められた『六朝精神史研究』第九章「顔之推論」があるはずです。ちなみに「顔師古の『漢書』注」は、『六朝精神史研究』後記にもありますように、『東方学報』51冊(1979)に発表されたものかと思います。
     吉川先生『読書雑志』の内容と直接関係する話ではないのですが、気になりましたものでコメントさせて頂きました。

  2.  Chunxueさま、ご指摘下さいまして、まことにありがとうございます。思い込んでいたため、確認もしませんでした。確認次第、記事を書きあらためます。
     それにしても、こうして思い違いをご批正いただけることは実にありがたいことです。印刷物でしたら、「あとの祭り」としかなりませんので。重ねてお礼申し上げます。

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