『敦煌音義滙考』


『敦煌音義汇考』希羨林題辞 張金泉、許建平『敦煌音義滙考』(杭州大學出版社, 1996年)は、20世紀初頭、甘粛省の敦煌から発見された典籍群、「敦煌遺書」のうち、「音義」に関わる書物について、写真を集め、解題、校勘記を記したものです。

 南北朝時代には、古典の読音を考える学問が発達し、その集大成が『経典釈文』であり、同書は現在にも伝わっています。敦煌遺書の中に、『経典釈文』の古い写本、そしてそれ以外の音義書が含まれており、当時の古典学を知る上で、きわめて貴重な資料です。『経典釈文』は中国古典の音義ですが、それ以外に、仏教経典の音義である『一切経音義』(これには、数種あります)などもあり、その敦煌写本もいろいろあります。

 本書の「前言」によると、P2494『楚辞音』、P2823『文選音』、S2729『毛詩音』などは、早くも1920年代から熱い研究課題とされてきたものの、これまで、音義書についての全面的、徹底的な整理がされてこなかったという現状に鑑みて、先行研究の成果を取り入れ、細かい校勘と論評とを加えた、とのこと。

 643件の写本を検討した結果、33種の書物としてまとめることができたそうで、全体を「四部書音義」「字書音義」「佛道經音義」の三類に分けています。細かい断片を集めた「四部書散音滙録」「佛道經散音滙録」を合わせると、35種になります。メモのため、その35種を挙げておきます。

 四部書音義

  • 『經典釋文』 S5735, P2617, P3315, 殷44(=BD09523)
  • 『毛詩音』 S2729(3), дх13660
  • 『毛詩音』 S10v
  • 『毛詩音』 P3383
  • 『毛詩』周頌 S5705
  • 『禮記音』S2053(2)
  • 『論語鄭注音義』 殷42
  • 『爾雅』郭注殘卷 P2661, P3735, P5522
  • 『春秋後語釋文』 S1439
  • 『莊子集音』 P3602
  • 『莊子音義』S6256
  • 『楚辭音』 P2494
  • 『文選音』 P2833, S8521
  • 注音本『文選』 S3663
  • 李善注『文選』 P2528, P2527
  • 「四部書散音滙録」

 字書音義

  • 『字書』 P3016
  • 『韻書摘字』P3823
  • 『注音本開蒙要訓』 P2578
  • 『字寶』 P2717, S619, P3906, S6204, P2508, 雨90
  • 『俗務要名林』S617, P2609, P5001, P5579(8)
  • 『雜集時要字』七種 S5514, P3776, S610, P3391, S3836, S3227, S6208
  • 『正名要録』 S388
  • 『辨別字』 S388
  • 『新商略古今字様撮并行正俗釋』S6208, S6117, S5731, S11423

 佛道經音義

  • 『一切經音義』S3469, S3538, P3734, ф23, P2901, P2271, P3765
  • 『新集藏經隨函録』 P3971, P2948, S5508, 李39, S3553
  • 『大般涅槃經音』 P2712, P3025, S2821, S3366, P2428, P5738, P3415
  • 『大佛頂如來密因修證了義諸菩薩萬行首楞嚴經音義』 S6691v, P3429, 宇26,S6985, S3720
  • 『佛本行集經難字』 P3506
  • 『妙法蓮華經音義』 P3406,S3082, S114
  • 『金光明最勝王經音義』 S6691v, S1117, S980, S17, 雲93, S267, S649, S2097, S18, S712, S814
  • 『佛經難字』 S5712, S5999, P3823
  • 「佛道經散音滙録」
  • 『諸難雜字』P3109, 秋26v, S4622(2), S840, P3365v, P3270

 このように、数百もの写本を逐一整理し、校勘記まで作られた張・許両氏の労力は察するに余りあります。写本の異体字を過度に整理しないために、1315頁にわたるこの厚冊は、わざわざ手写されています。

 残念なことに、写真に不鮮明なものが多く、まったく判読できないものさえありますが、写本の写真は、現在では比較的容易に見られるわけですから、深く責める必要はないでしょう。

*張金泉, 許建平『敦煌音義滙考』杭州大學出版社, 1996年。Webcat所蔵図書館は26館(本日付)。

番号の説明:Sは大英図書館蔵。Pはフランス国家図書館蔵。漢字は中国国家図書館蔵。キリル文字はロシア科学アカデミー蔵。( )内は枝番。vは紙背。

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「『敦煌音義滙考』」への2件のフィードバック

  1. 此本、かなりおもしろそうですね。敦煌文書は一般に仏典のイメージがつよかったのですが、色々勉強できそうですとか思いました。敦煌文書は確か漢~唐の間に入るものだったと思うのですが、時代の判定というのがどういう風に行えるのかを知りたいのですが、教えていただけますでしょうか。

  2. 一般向けの内容ではありませんし、ずいぶん前に出版されたもので、出版部数も少ない書物です。校勘記を読み取る力があり、しかも小学に関心のある人にはお勧めできます。昭夫さんのお役に立てば、という思いもあり、ご紹介しました。

    敦煌のものは、北朝から隋唐五代にかけて書写されたものが多く、敦煌漢簡は別として、漢代のものはないはずです。時代の判定は、書風、料紙の鑑定によることが多く、かつて藤枝晃氏が、『墨美』という雑誌に「敦煌写経の字姿」というものを連載されました。鑑識眼に特別の自信がない場合、あまり関与しない方が無難な分野です。年代の明記してある写本については、池田温氏の『中国古代写本識語集録』を使うことが出来ます。

    なお、「文書」というと、書物以外のものを思い浮かべますので、書物については「敦煌文献」「敦煌遺書」と呼ぶのがよいと私は考えます。

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