『音韻学教程』


 唐作藩(1927-)『音韻学教程』第3版(北京大学出版社、2002年)は、漢語の音韻学を学ぶための教科書であり、中国の大学の授業で用いられているものです。

 第1章 緒論

  • 第1節 音韻學的對象
  • 第2節 音韻學的功用
  • 第3節 音韻學的學習方法

第2章 音韻學的基本知識

  • 第1節 漢語音韻結構特點
  • 第2節 反切
  • 第3節 關於聲紐的概念
  • 第4節 關於韻母的概念
  • 第5節 關於聲調的概念
  • 第6節 等韻圖

第3章 《廣韻》音系

  • 第1節 《廣韻》的由來和體例
  • 第2節 《廣韻》的性質
  • 第3節 《廣韻》的聲母系統
  • 第4節 《廣韻》聲母和現代普通話聲母的比較
  • 第5節 《廣韻》的韻母系統
  • 第6節 《廣韻》韻母和現代普通話韻母的比較
  • 第7節 《廣韻》的聲調
  • 第8節 《廣韻》音系的構擬
  • 第9節 《廣韻》反切的規律

第4章 漢語音韻學簡史

  • 第1節 韻書産生以前的古音研究
  • 第2節 《廣韻》以後的韻書

 私は学生時代、漢語音韻学の大家に手ほどきを受け、自分でも幾つか概説書を読んでみたのですが、どうしても理解した気になれませんでした。音韻学は、中国語学を専攻する人にとって必要なのはもちろん、中国文学・中国思想を学ぶためにも重要な学科です。さように重要でありながら、マスターできる人は多くありません。「音韻学は難しい、理解しがたい」、というのは、必ずしも私にかぎった話でもなさそうです。

 本書の著者、唐作藩氏は次のように書いています。

 「音韻学は難しいか、難しくないか?」と問うた人がいる。難しい一面もあるが、また容易な一面もある、と我々は答えたい。難しいというのは、音韻学を学ぶのは、他の学科を学ぶのと違うところがあるからだ。たとえば古典文学、現代漢語などを学ぶ場合、過去に我々は多少なりとも対象に接触したことがあるわけだが、音韻学の場合、初めて接触するものだ。さらに面倒なことに、漢字は表音文字ではなく、古代には科学的に音を記録する道具もなかったので、表音文字ではない漢字によって語音を記述し、それによって漢字の読音を分析するのだから、どうしても専門的な術語を作る必要があったので、それが我々にいささかの困難をもたらしてしまうのである。……。

 けれども、我々が、音韻学は難しくない、そして容易ですらある、と言うのにも根拠がある。音韻学は畢竟、一種の「口耳の学」であり、ある言語やある方言を習うのと同じで、本来、特別なところはまったくなく、音韻を学習するというのは古代の語音を学習するということで、さらに語音は言語の三要素(語音、語彙、文法)のうちで最も系統性に富んでおり、語音の声母、韻母はともに有限であるから、それらを掌握してしまえば、系統全体も掌握することができるので、それゆえ、学習する際、その便利なところが確かにあるのだ。(p.12、第1章第3節)

 漢語音韻学は、外国人にとって難しいのみならず、漢語を母語とする人々にとっても、難しい面があることが知られます。著者は、長年、音韻学の講義をされて、学生が難しく感じる部分を熟知しているのでしょう。難しさを解消すべく、音声学をしっかりと説明し、国際音声記号(国際音標)を基準にしている点が、私にとっては分かりやすく感じられました。

 音声の問題を抜きにして、音韻学上の諸概念を理詰めで理解できる人もきっといるのでしょうが、その方法では私には理解できませんでした。たとえば、「五音」とは、音節のはじめの子音を喉音・舌音・歯音・唇音・牙音の五つに分ける伝統的な術語ですが、歯音といわれても、具体的にどう発音するのか、はっきりしません。しかし「精」の中古音の声母が、「舌尖前、塞擦音、清、不送気(Voiceless alveolar affricate)」であることが分かれば、国際音声記号表に照らして、それは現代漢語の「資」の声母と同じ音だと分かります。伝統的な音韻学の術語は、すべて国際音声記号で解釈できる、というのが、この教科書のミソです。

 目次からも分かるように、第3章、中古音の解説が内容の主体となっています。ただ、それを理解するためには、第2章の理解が不可欠であり、そこを読めば音声が分かるようになっています。逆に言うと、第2章をよく理解すれば第3章は難しくない、と感じました。音韻学は、確かに「口耳の学」なのだ、と納得できました。

 中古音の推定音価は、あくまでも「推定」ですから、確定したものではありません(そもそも古代の音を厳密に復元するのは原理的に不可能でしょう)。しかしながら、そうではあっても、手がかりとしてはきわめて有用です。歴史地図が、必ずしも正しくないとしても、古地理の理解に不可欠であるのと似ています。推定音価に疑いを抱くのは、初級の段階では不要ではないかと思います。

  私の読んだのは第3版ですが、第2版(1991年)と初版(1987年)もあります。書架を探ってみたところ、初版も見つかりました(橋本先生手沢本、なぜ私の手もとにあるのか、不明)。初版は簡化字版ですが、第2版・第3版は繁体字版です。比較してみたところ、内容は同一ですが、初版にあった誤りが第3版では訂正されているなど、細かい修正が加えられています。

*唐作藩『音韵学教程』(北京大学出版社、1987)、Webcat所蔵館は5館。

*唐作藩『音韻學教程』第2版(北京大學出版社、1991)、Webcat所蔵館は12館。

*唐作藩『音韻學教程』第3版(北京大學出版社、2002)、Webcat所蔵館は0館。

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