『啓功口述歴史』


啓功 『啓功口述歴史』(《启功口述历史》北京師範大学出版社、2004年)は、書法家、古典学者として名高い啓功氏(1912-2005)が生前に遺された歴史の証言です。出版後、中国ではかなり話題になっていましたが、今頃になって読んでみました。

 啓功氏は、雍正帝の10世の子孫、清朝の皇室に連なる人です。もっとも、曾祖父の溥良の頃には、だいぶ爵位も下がっており、溥良は爵位を捨てて科挙を受験して官人となったそうです。そして啓功氏の父親が早く亡くなったこともあり、啓功氏の一生は、清室の貴人ということばから連想される華やかさとはほど遠いものであったことが、この書物を通して分かります。

  • 第1章 我的家族
  • 第2章 我的童年和求学之路
  • 第3章 我与辅仁大学
  • 第4章 我与师大
  • 第5章 学艺回顾

 みずからの家系から説き起こして、父を早くに失った少年時代、ラマ教徒としての宗教生活、匯文小学・中学時代、溥心畬・斉白石らについて学んだ修業時代、輔仁大学での仕事ぶりや「校長」陳垣との関わり、解放後に輔仁が北京師範大学に合併された後の苦労、反右派闘争(啓功氏はその出自からして、早々に右派と決めつけられました)、文化大革命、そして晩年における名声の確立と、めまぐるしく語られる啓功氏の生涯は、まさに近現代中国の激動の縮図です。

 偉人が自己を語るという点においては、『福翁自伝』に似ていなくもありません。ともに「口述」が成功を収めています。隠すことなく自分自身を語るところに、歴史の証人としての非常に大きな価値を感じます。

 この人にしか語り得なかったことが満載されています。16開という大きな版型と比較的軽い料紙には、最初、違和感を持ちましたが、慣れてくると、豊富に盛り込まれた貴重な写真とあいまって、まるで週刊誌を手に取るかのような気安さを感じ、最後まで心地よく読むことが出来ました。

 心にのこったエピソードを一つ。文革末期の1975年、長年、苦楽をともにした夫人が病気で亡くなりました。弔問に訪れる人々に感謝しつつも、彼らに対して、啓功氏は、少しだけ夫人と二人にしてほしい、と頼みます。そして、啓功氏は夫人の遺体の前でひっそりとお経を上げました。文革期に宗教が禁止されていた中、人目を忍んで夫人を悼む啓功氏の姿は、読者の胸を打ちます。

 学術生活においては、輔仁時代の交友関係の話題がもっとも精彩に富んでいます。そのほかにも、文革中の「二十四史」点校プロジェクトの話などは、初めて知ることで、興味深く読みました。

 内容のおもしろさもさることながら、活き活きとしたことばで語られているので、中国語の学習にももってこいです。本書を1週間程度で読了できる人は、相当に中国語の読解力が高いといえるのではないでしょうか。

 日本の書道界には、啓功氏のファンが多いようなので、本書の邦訳にはある程度の需要が見込めるのかも知れません。

* 『啓功口述歴史』(北京師範大学出版社、2004年)、Webcat所蔵館は、0館(本日付)。

〔補〕ネット上には、『後功口述歴史』なる書物からの引用が転がっています。「启」と「后」との区別もつかない人が、どうして本文を理解できたのか、実に奇っ怪なことです。

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