なぜ『説文』を学ぶのか?


なぜ『説文』を学ぶのか?

  1. 『説文解字』は、漢字を体系立てて説明した書物の元祖であるからです。
  2. 『説文解字』には、「萬物咸覩、靡不兼載」と許慎がみずから誇るように、主要な漢字が網羅的に収められているからです。
  3. 『説文解字』は後世の漢字学の古典・基礎であり、漢字をあつかう以上、避けては通れないからです。

なぜ『説文解字』540部を憶えるのか?

    1. 『説文解字』をまがりなりにも理解するには、その部首の理解が不可欠だからです。
    2. 540の部首は、許慎の思想に基づき配列されているので、序列を知ることで、『説文解字』の全体像を理解できるからです。

・許慎は「方以類聚、物以羣分。同條牽屬、共理通貫」と言っている。つまり、序列に脈絡がある。阿辻哲次『漢字学』(東海大学出版会、1985年)、第1部、「『説文解字』の構成―文字のコスモロジー」に詳しい。たとえば:
・すべての根源であると許慎が考える「一」で始まる。
・巻頭の第1篇に「天」、巻末に近い第13篇に「地」(部首としては「土」)を配し、中間部分の第8篇に「人」を配す。
・第14篇の末には、十干・十二支を配し、「亥」で締めくくる。

  1. 『説文解字』所収のどんな難字でも、字の要素を『説文解字』の指示どおりに分解すると、540部という部品に還元できるからです。
  2. 裏を返せば、540部を知っていれば、すべての『説文』所収字の構造を理解できるからです。

(附)効用として、索引なしに目当ての文字にたどりつくことができるようになります。

なぜ『説文解字注』に頼るのか?

  1. 段玉裁の『説文解字注』という清朝考証学の粋と言うべき著作の登場により、『説文解字』自体の偉大さがより明確になったからです。
  2. 清朝考証学により明らかになった古音の研究成果を、本書を通じて理解する必要があるからです。

個人的な感想

  1. 『説文解字』は、目録学に似ています。まさに分類の思想です。
  2. 『説文解字』は、類書・百科事典に似ています。実用的な知の分類、という意味で。
  3. 『説文解字』は、よくできた地図に似ています。これなしに漢字の世界を旅するのは、無謀です。
  4. 自分が目録学をやっているせいか、索引を使ってしか『説文解字』を利用できないのは、情けないと感じます(頭に全体像が描けていない状態、すなわち、無知)。序列を憶えて、「『説文解字』の思想」を身につけたいと思っています。
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「なぜ『説文』を学ぶのか?」への5件のフィードバック

  1. Xuetui様
                            2011年1月8日
    ◎「萬物咸覩、靡不兼載」。
    段注を書き出してみました。

    許沖云、「天地鬼神、山川艸木、鳥獸*(虫+虫)蟲、襍物奇怪、王制禮儀、世間人事、莫不畢載」。
    蓋史游之書、以物類爲經而字緯之。許君之書、以字部首爲經而物類緯之也。

    「許沖云(15巻下)」、「鳥獸*(虫+虫)蟲」となっています。「艸木」、「鳥獸」と来たら「蟲魚」では、と思いますが、「魚、水蟲也」だからこれでよいのでしょうか。「字部首」とは、「字」と「部首」ということでしょうか。「540部を憶える」。漢和辞典の順番も駄目というのに、ああ「日暮れて途遠し」。
    漢和辞典は机上に角川『新字源』、パソコン内に学研『漢和大字典』、平凡社『字通』が置いてあります。『字通』には盛んに『説文』が引かれていますが、使い出は如何なものでしょう。今、以下の2例を調べてみました。

    ①「急就」。
    『学研』。物事をすみやかに成就する。
    『字通』。速成。
    ②「叵」。
    『学研』。指事。可の字を左右逆に書いて、「不可」の意をあらわしたもの。不可がつづまって、一音節(フ+カ→ハ)となったことば。
    『字通』。字が見当たらない。

    いつか、白川先生の『説文』研究、辞書作成の、功ではなく、罪を論じて頂きたいと思います。「此書ほど無用の勞苦を積み、無用の大冊を成就したるは、亦想像の外にあり。著者の盲目的勉強は實に氣の毒の至りといふの外なし」というような・・・。
    藤田 吉秋・Eメール・toubokuji@nifty.com

  2.  藤田さま、どうもありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

     段注、ありがとうございました。「鳥獸䖵蟲」は、『毛詩』大雅、靈臺の序に「鳥獸昆蟲」とあるのに拠るのかも知れません。「字部首」は「字の部首」ではないでしょうか?「物の類」に対して。

     白川氏の学説に対しては、物を申し上げるような準備がない、というのが現状です。白川氏は『説文』の説を多く否定しており、その中には当たるものも、当たらないものもあるのでしょうが、その著書の読者が「『説文』なんて、時代遅れの謬説のかたまりだ」「『説文』は無意味だ」と万一、思いこむなら、それはたいへんに危ういことだと思っております。

     小学校の漢字教育の場で、地方自治体や学校によって、完全に白川説に基づいて教育している所がある、とニュースで見ました。よいことなのか、どうなのか、少し考え込んでしまいました。

  3. 素人ですが、散策するように、色々読ませていただきました。楽しかったです。

    僕が勝手に思うに、あきらかに高く深い学識があるのに、あえて白川静をスルーしてしまうのは、一番失礼なのではないかと思っています。無視しているというか。部分的にでも「説文」が正しいなら、ここは「説文」のほうが正しいと論戦をはることが、大切なのではないかと。

    人知らずして慍みず、亦た君子ならずや。なのでしょうが…

    現在の日本において、あなたほど古代中国の文字学、文献学に精通している人はいないのではないか? と思いました。人文科学は専門家の手によって細々となされる学問なのでしょうが、あまりに孤独な状況なのではないかと。博士号を取っても受け皿が少ないことより、若い研究者がなかなか育たない状況ですし。

    徳は孤ならず。必ず鄰あり。

    京都学派が再構築され、建設的な論議が生まれることを期待しています。

    ところで、古音の再生って、どの時代まで遡ることが可能なのでしょうか?「詩経」や「論語」の古音は再生可能なのでしょうか?

    では、素人の戯言、失礼しました。

    1. 秋山様

      コメントくださいまして、まことにありがとうございます。

      まずお断りしなくてはならないのは、私は碩学でも博学でもなく、決して日本を代表する漢学家ではありません。他に詳しい方が多くいらっしゃいます。学問の世界は広大であるにも関わらず、それに対して自分自身の見識はあまりに小さく、本当に「管窺蠡測」のたとえ通りです。様々な学説を総合的に考えて大いに論じたいのはやまやまですが、とても余裕がありません。

      そういう次第ですから、決して白川静氏のみを無視しているわけでも軽視しているわけでもありません。むしろしっかり勉強してから白川氏の学説に向き合いたいと思っております。その時は、ブログにも書きますので、ぜひお読みください。

      白川氏も『説文』の研究はなさったことですし、ここから勉強を始めるのはおかしくないと思い、自分でも読み人にもすすめています。『説文』の研究、ひいては漢字の研究には、形・音・義、三面からの研究がありますが、(能力的な限界のため)私は義の研究に関心があり、そのせいで形と音はおろそかになってしまっているところがあります。

      古音の再構築はかなり進んでおり、近年では、Baxter氏や鄭張尚芳氏の研究が影響力を持っているようです。野原将揮氏という方が、まとめを書かれていますので、ご関心がおありなら、ご覧ください。
      http://www.for.aichi-pu.ac.jp/museum/pdf7/nohara100.pdf

      鄭張尚芳氏の『上古音系』(第2版、上海教育出版社、2013年)は私も読みましたが、後半部分に上古音の再構音が載っています。以下のサイトでも調べることができます。
      http://ytenx.org/dciangx/

      またお寄りいただければ幸いです。

      学退覆

      1. レビュー論文を紹介していただき、ありがとうございます。真剣になって5回読み返しました。おおよそは理解できたと思うのですが完璧ではないので、時間をおいてまた5回ほど読み返してみようと思っています。

        いただいたレビュー論文を元にネット検索した結果、

        古代中国語音韻学ハンドブック 単行本 – 2014/5/9
        ウィリアム・H. バクスター (著), William H. Baxter (原著), 田中 孝顕 (翻訳)

        という本が和訳されていることを発見しました。~「なか見検索」にて、冒頭部分が読めるので、さらっと読んでみました。

        「統計と詩経の韻を活用してのテスト」~ 今どきの、スタートしたばかりの学域なのかなぁと思いました。

        図書館に買ってもらって、先生の「中国古代のヨイトマケの話」を想起しながら、ゆっくり時間をかけて読んでみようと思っております。

        本当にありがとうございました。また楽しみにしています。

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