『王勃集』の断簡


『王勃集』上野本
『王勃集』上野本

『書法漢学研究』(第8号、2011年1月)という雑誌に載った論文を読みました。道坂昭廣氏「伝橘逸勢筆「詩序切」と上野本『王勃集』の関係について」と題された論文です。

『王勃集』は、我が国に古く伝えられた、唐の早熟の詩人、王勃(649-677)の詩文集であり、中国の本はその全貌を伝えていないので、日本に伝存している唐写本の残簡はたいへんに貴重なものです。道坂氏の論文(p.16)に従い、以下、列記します。

  • 「詩序」1巻として正倉院に伝わる41篇の「序」。
  • 上野本(上野尚一氏蔵)。唐の『王勃集』の巻28に相当。
  • 富岡本(「東博本」と呼ばれる。東京国立博物館現蔵)。唐の『王勃集』の巻29、30に相当。
  • 神田本(東京国立博物館現蔵)。巻29の残巻。

以上は、内藤湖南らが紹介して、すでに明らかになっていたことですが、道坂氏は、熱海市にあるMOA美術館が所蔵する『翰墨城』という手鑑(古筆を集めて貼り合わせたもの)の中に「橘逸勢の筆」と称される古筆切があることに注目され、そして、これこそが「上野本」から切り取られた、『王勃集』巻28の断片である、と論証されています。

わずかに3行を残すのみのこの断簡が、「陸□□墓誌」の銘文であることが、道坂氏の力によって論証されたのは、喜ばしい限りで、素晴らしい考証に敬意を表します。紙の裏(紙背)に書かれた仏書を根拠にした推理には、殊に切れ味を感じました。

ただ、この銘文にはいくつか読みがたいところがあります。道坂氏はこの断簡を「…泉不廻。悠々蒼天,此何人哉。先王有制,何為王摧〔其二〕。昔殷三仁,同謂哲達。士誘物誰,是顧生死。嗟乎弊俗,情變久矣。吾子隕…」と読まれ、この釈読は間違いないはずですが、「達」の字が韻を踏まないことは、特に不審です。いくつか誤字があるように思われますが、如何でしょう。

ともかくも、このように「上野本」から切り取られた断簡が見いだされたことは、たいへんに興味深く、京博にて現在開催中の展覧会、「筆墨精神」を展観する上でも、大きな楽しみとなります。開催期間中にまた足を運び、もう一度『王勃集』をながめてこようと思っております。

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