愚かな「頭」


四部叢刊重印『老子』
四部叢刊重印『老子』
四部叢刊初印『老子』
四部叢刊初印『老子』

山城喜憲氏『河上公章句『老子道德經』の研究』(汲古書院、二〇〇六年)は、きわめて精細な『老子』河上公注の校勘学的研究です。同書の緒論に、四部叢刊本の『老子』を説明して、次のように言っています。

四部叢刊には初次印本と重印本とがあり、重印に際して一部の収載図書は底本を新出の善本と差し替えてある。しかし『老子道德經』の底本は、初次印、重印共に同本であって、影印本であるからにはどちらを使用しても変わりないはずであるが、実際には、僅かであるが字句に異同が存在する。重印時に無用な操作が施されたことが原因のようである。(p.25)

山城氏は、緒論の注(46)においてさらに詳しい説明を加えており、初次印と重印とで字が変えられている例として、第1章の「頑」が「頭」に変えられ、第15章の「米」が「采」に変えられ、第17章の「煩」が「須」に変えられている、と指摘しています(p.602)。

これを読み、急いで四部叢刊の初次印本と重印本を対照してみました。すると、確かに、第1章の「非常名」の河上公注の「外如愚頑」と初次印本にあるのに対し、重印本では、なんと「外如愚頭」に変えられているのです。山城氏がこれを「妄改」と評するのは、もっともなことです。

四部叢刊と言えば、善本の影印版の代表的なものであり、私も日常的に利用して裨益を受けていますが、残念ながら私の所有する台湾版も、重印本をさらにリプリントしたものですから、上記の「妄改」を免れていません。困ったものです。

なお、同じく山城氏の指摘によると、四部叢刊が重印を出した経緯については、商務印書館「印行四部叢刊啓例」(張静廬編『中国現代出版史料』甲編、巻4)に詳しい、とのことです(p.602)。

【補】山城氏は、第15章(上8オ1a)の「米/采」の異同についても指摘なさっています。私は京都大学文学部署図書館に蔵する初次印を見ましたが、「采」に作ってありました。これについては、今後、他の初印本にも当たって確認したいと思います。

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「愚かな「頭」」への4件のフィードバック

  1. 米・采 の異動について、確認してみましたが、使用した初印本には、間違いなく 米 とあります。初印本も重印本が頒布されるまでに、何度か印刷されたと考えられますので、その過程で加筆されたのでしょうか。

  2. 重要なご指摘をくださいまして、まことにありがとうございます。四部叢刊の初印本といっても、どれもが厳密に同一であるわけではないのですね。勉強になりました。
    私が見たのは、京都大学文学部署図書館に蔵する一本でしたが、標準とすべきような四部叢刊の初印本として、これといったものがあるのでしょうか。
    上記の記事の書きぶりは、不適切であったと反省いたしましたので、修正させていただきます。無礼な発言になってしまいましたこと、お詫び申し上げます。
    今後とも、よろしくご指導ください。
    学退上

  3. 古勝 隆一先生
                            2012年10月22日
    前略。
    ◎「第1章の『頑』が『頭』に変えられ」。
    山城先生は「原本未見」と言われ、古勝先生は「原本を見る機会を得られれば」と言われる「四部叢刊」の底本・中国国家図書館蔵『老子』原本は、それぞれ
    第01章「内雖昭昭、外如愚頭」
    第15章「内守精神、外無文米也」
    第17章「禁多令湏(須)、不可歸誠」
    となっているのではないでしょうか。「四部叢刊」の初次印本を刊行する際、原本の「愚頭」、「令湏(須)」をそれぞれ「愚頑」、「令煩」と訂正したものの、原本の誤刻は誤刻のまま残すとして、重印の際、「愚頭」、「令湏(須)」に戻し、「文米」は、最初次印本はそのまま、次に「文采」と訂正し、「文米」に戻さなかったのではないでしょうか。藤田 吉秋

  4. 藤田さま

    コメントくださいまして、ありがとうございます。さて、ご推測の件ですが、やはり重印で手を入れた可能性の方が高いと思っております。いずれ機会を得て、と思っております。その時は、ご報告いたします。

    学退上

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