周公と泰西


孫詒譲(1848-1908)、あざなは仲容、号は籀廎、浙江省瑞安の人。『周礼正義』86巻という著作により大いなる名声を誇る学者であり、あえて紹介するまでもないかもしれません。

その『周礼正義』は、『周礼』を読むには不可欠の注釈とされており、王文錦・陳玉霞両氏の点校を経て、中華書局の「十三経清人注疏」にも収録され(中華書局、1987年)、今なお多くの学者の敬意を集めています。

ただ、標点本で14冊という分量の問題もあり、本書を読んでみようという気にはこれまでなかなかならず、必要になるたびにその一部を拾い読みするだけですませてきました。先日も必要があって、「春官」の一部を読んだのですが、いつもと違って何故か、さらに読んでみたくなり、引き込まれるように序・凡例・天官の序官(巻1)を読みました。

孫詒譲はなぜ『周礼正義』を書いたのか?これまで考えたこともありませんでした。しかし、孫氏の自序を読み、『周礼』という経典に寄せるその思いを知りました。周公が作ったという「周の礼」たる『周礼』、この書物には、「政」(政治)と「教」(教え)の二つが備わっている、と孫氏は言います。上古の聖人に対する並々ならぬ尊崇が本書執筆の動機になったのはもちろん、中国(序文が書かれたのは1894年)が再び『周礼』の精神を取り戻して輝くこと、そのような期待が本書には込められているのです。

「政」と「教」とが完備した世こそが、栄える。そのように考える孫氏の眼は、周公の治世のみに固定されているのではありません。19世紀のヨーロッパの繁栄も、『周礼』に反映されたのと同様の「政教」の充実によるものだ、孫氏はそのように考えました。

今泰西之強國,其為治,非嘗稽覈於周公、成王之典法也,而其所為政教者,務博議而廣學,以臮通道路,嚴追胥,化土物卝之屬,咸與此經冥符而遙契。蓋政教修明,則以致富強,若操左契,固寰宇之通理,放之四海而皆準者,此又古政教必可行於今者之明效大驗也。
現在、ヨーロッパの強国が政治を行う際、周公と成王の定めを考究したわけではないが、かの国々が行っている「政」「教」は、十分に議論して広く学ぶことに務めており、さらに、交通を発達させ(『周礼』の春官司險、夏官合方氏、秋官野廬氏に相当、以下同じ)、盗賊を厳しく取り締まり(秋官士師、脩閭氏)、土壌改良したり(地官草人)金属の特性を吟味したりする(地官卝人)など、みなこの『周礼』と冥合して地を隔てて合致しているのである。考えるに、「政」「教」が修められて明らかになれば、それによって富強を実現できる。割り符の片方を手に取っておれば、そもそも全世界に通じる道理なのであって、世界中に通用させてみなが従うわけであり、このことも、いにしえの「政」「教」が必ず現在にも行いうることの、明らかで大いなる証拠である。(「周礼正義序」より)

後ろ向きで固陋、しかも卑屈な学者たちは、昔も今も、中国にも日本にもたくさんいますが、私はそういう態度を好みません。孫氏が眼を向ける方向は、彼らとはまさに反対です。経典にもとづく未来を信じる孫氏の姿勢は、少なくとも、大いに私を励ましたのです。

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