半樹斎文


顧千里(1766-1835)にとって同郷の親友であった、戈襄(あざなは小蓮)。先日ご紹介した、その「贈顧子游序」は名文でした。内閣文庫蔵本の写真版が人文研にあるので、さっそく見てみました。

半樹齋文四卷 清 戈襄 撰

昭和四十四年 本所 用東京内閣文庫藏嘉慶三年序刊本景照 京大人文研 東方

巻頭に四つの序が冠せられています。

  • 錢大昕「半樹齋文藁序」
  • 袁枚「序」(嘉慶元年五月)
  • 顧広圻「序」(嘉慶二年五月)
  • 范熙「序」(嘉慶三年冬)

錢大昕(1728-1804)と袁枚(1716-1797)とは、実に豪華な顔ぶれで、親友たる顧千里と范熙も並んで序を寄せています。戈襄にとって、『半樹齋文』の出版は、この上なく晴れがましいことであったはずです。

范熙の序に「近頃、広東の東部から帰郷して、戈襄がみずから刻した『半樹齋文』四巻を見た」云々と言っているので、その序文が書かれた嘉慶三年(1798)に、戈襄みずから『半樹齋文』四巻を出版した、と考えられます。そういう意味では、前掲の書誌に問題はありません。

ところが、私が感激した「贈顧子游序」は、李慶氏『顧千里研究』(p.82)によると、『半樹齋文』卷10に収録されている、とのこと。しかもこの一文は、出版の二年後、嘉慶五年に書かれた、と。これ如何に?

不審に思い、『販書偶記』に当たってみると、『半樹齋文』には、(1)嘉慶年間に出版された四巻本と、(2)道光七年に出版された十二巻本が存在する、とのこと。李慶氏のご覧になったのは、後者であったに違いありません。

身近に十二巻本がないので、残念ながら「贈顧子游序」の全文を読むことはできませんでしたが、四巻本もなかなか興味深いものです。ほとんどの文に対して錢大昕や顧千里が簡単な評を加えているのも面白く感ぜられます。錢氏が「以小喩大,亦有見地」「奇挈自成一子」と評した「雨中蚊」上下篇(乙卯年1795の作、巻三所収)の冒頭を紹介してみましょう。

 蚊行于夏,不晝而夜。其來無方,其去莫知。雖百計使之斃,弗能絶。譬如小人,盈千累萬,君子縱斥逐之,放殛之,終無以盡,而于是得時者,多出其技,以噆人噬人,如蚊之所為,則蚊者小人之師也。

思わず読んでしまいます。戈襄は古文の名手として名を馳せたらしく、袁枚も錢大昕も高く評価しています。錢大昕の「置之韓(愈)、歐(陽修)集中而不能辨」という「達兒小誄」(巻四)に対する評も、あながち大げさではなさそうです。

さすがは顧千里の親友。興味深い人物です。

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「半樹斎文」への4件のフィードバック

  1. 古勝 隆一先生
                            2011年12月3日
    前略。
    ◎「『贈顧子游序』の全文」。
    李慶氏著書のP.82に「節録如下」として。また、P.258~P.261に「思適軒記」、「與顧澗蘋書」、「贈顧子游序」の3篇が引かれておりました。十二巻本『半樹斎文』は日本に無いのでしょうか。銭大昕の序文は文集にて確認しました。

    小蓮負雋異之才、多愁善病、日以詩酒自娛。而尤好古文。所作皆直抒胸臆、卓然有得。而脱去俚俗浮艶之習。其爲人也、孝於親、篤於朋友、以古人爲師。而無慕乎榮利。故其下筆勁健、立論醇正、得古人之神韻。而不爲苟作。使爲之不已、其蘄至于古人無疑也。加其膏而希其光。古人豈遠乎哉。

    銭氏の序文の最後が韓文の「答李翊書」に拠ることまでは調べられますが、汪紹楹氏「阮氏重刻宋本十三經注疏考」・陳鴻森氏「段玉裁年譜訂補」、この2点は、私ども江湖の者には手も足も出ません。
    藤田 吉秋・Eメール・toubokuji@nifty.com

  2. 藤田さま

    コメントありがとうございます。十二巻本『半樹斎文』は、どうやら、日本では蔵している機関がない様子です。昨年、上海古籍出版社が出した『清代詩文集彙編』に影印本が収められている、とのことですが、800冊もあるシリーズなので、どこの図書館もなかなか手が出ないのでしょう。稀覯本というわけでもないのでしょうが、簡単に見られそうでもありません。見られ次第、またご報告いたします。

    汪氏、陳師のものにつきましては、お望みなら、PDFファイルにしてお送りいたします。来週になってしまいますが。 学退上

  3. 古勝 隆一先生
                            2011年12月3日
    拝復。
    ◎「どこの図書館もなかなか手が出ない」。
    この予算削減は困ります。予算と言えば、宋版『柳先生文集』は、いくらでたれの手に落ちたのでしょう。
    ◎「PDFファイルにして」。
    恐れ入ります。「段氏はもともと人と争って勝つのを好む人」の原文は見たいと思います。
    藤田 吉秋・Eメール・toubokuji@nifty.com

  4. 藤田さま

    どうもありがとうございます。PDFは、近日中にお送りいたします。『柳先生文集』、どうなりましたかね、もし何かご存じでしたら、お教えください。結局、実物は見に行けませんでしたが、行かれた人によると、「珍しい、包背裝のものだった。粗忽な先客が表紙を破ったおかげで、装丁の具合がよく見えた」ということでしたが。 学退上

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