「中国における図書分類の歴史」


qiancunxun銭存訓(1909-2015)氏「中国における図書分類の歴史」(『ライブラリー・クオータリー』22-4、1952年)を読みました。これまで、欧米の目録学研究を読んでこなかったのですが、一九五十年代に書かれたこの論文にまず出会えたのは、幸運でした。

Tsuen-Hsuin Tsien, “A History of Bibliographic Classification in China”, The Library Quarterly, Vol. 22, No. 4 (Oct., 1952), pp. 307-324

当時、アメリカの図書館関係者を読者として書かれたらしく、ほぼ以下のように構成されています。

  • 序文
  • 伝統的な目録学の歴史
  • 近代的な図書館学との邂逅、目録法改良のためのさまざまな試み
  • 問題点と将来の展望

初めの方に、「フランシス・ベーコン(1551-1626)の学問分類は、中国の目録学の影響を受けた可能性もある」と書かれており、実証性に不安を覚えましたが、これは、アメリカの読者を引きつけるための方策にすぎないのでしょう。

伝統的な目録学史の概説では、劉向・劉歆父子の業績から、南北朝時代の七分類法の説明、四部分類の確立、『四庫提要』、四部分類以外の伝統的な目録法の説明までが、なされています。仏教・道教書の目録学は述べられていないものの、初心者が中国の目録学を知るという意味で、その基礎としては十分であると感じました。あまり概説書に登場しない許善心『七林』をSeven Grovesとして紹介するなど、なかなか念入りです。

また先日、ご紹介したとおり、『七略』及び『四庫提要』の分類名すべてに英訳を当ててくれています。こういう丁寧な作業は、欧米人にとってのみならず、我々にとっても大いに有益です。

近代以降の十進分類法の導入、その適応の努力、ハーバード燕京方式などさまざまな目録法の試行などについては、銭氏ががもっとも力を入れて書いているところです。この雑誌の主な読者層である(中国書を取り扱う)図書館員には、「中国書の整理を如何にすべきか」という目前の課題があり、その適切な分類を模索していたのでしょうから、ここに重点があるのは当然です。しかし残念ながら、私自身は近代的な図書分類に暗く、関心もやや薄いため、この部分を評価することはできません。

最後の部分には、目前の課題として中国書を分類する際の問題点、困難、その解決への展望が書かれています。この部分はたいへん力強く書かれており、参考になります。伝統的な目録学と近代の図書分類が整合しないところに分類の困難があるのですが、伝統的な中国書がもって難しい性質を、銭氏は三点挙げています。

  • 伝統的な目録学は、枠組みの中心に儒教を据えてきたこと。
  • 枠組みが簡単すぎて、詳細を組み込めない構造になっていること。
  • 枠組みに柔軟さがないこと。

これらの指摘は、実によく問題点をとらえていると思いました。

さて、こういった伝統目録学と近代図書館学との溝を如何に埋めるか、という問いが当然、その先にあり、銭氏も分類の標準化を推進すべく、大いに気を吐いています。

ただ私としては、銭氏自身が指摘したとおり、中国目録学固有の性質があまりに根深いものと感じられ、旧書(伝統目録学の埒内にある書物)と新書(それ以外の書)とを一括して分類することに抵抗があります。むしろ両者を分けておくのがよいように思います。むろん、私は図書館学の専門家ではありませんので、漢籍に日々接する一学徒としてそのような感想を抱くにすぎませんが。

銭氏の概説が書かれてから50年。あまり標準化が進んでいるとはいえないようです。裏を返せば、銭氏の問いは古びていないともいえます。

この論文は、「中国における図書分類の歴史」という題名に背かず、古代から現代までを視野に入れた堂々たる議論で、英語で書かれた目録学の礎とするに十分です。惜しむらくは、参考文献が一切なく、源にさかのぼりえない点ですが、アメリカの図書館員が中国書を参照することの非現実性、そして草創期における先行研究の欠如という、当時の事情をくむべきかもしれません。

銭氏は1909年、江蘇省泰県の出身、金陵大学に学び、上海交通図書館副館長等を努めた後、1947年に渡米、シカゴ大学の蔵書を整理し、その教授となった学者。邦訳に『中国古代書籍史―竹帛に書す』(法政大学出版局,1980年)、『中国の紙と印刷の文化史』(法政大学出版局,2007年)があります。

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「「中国における図書分類の歴史」」への2件のフィードバック

  1. 「竹帛に書す」は私はとてもおもしろく読んだことを思い出します。ただ、今の出土物研究者にいわせると、古すぎるそうですが・・・。
    銭氏ははまだご健在なのか以前から気になっていましたが、百度百科によると、103歳ながらお元気そうです。
    http://baike.baidu.com/view/1233440.htm

  2. Whitestonegさま、こんにちは。コメントくださいまして、どうもありがとうございます。

    この文章の方がむしろ『竹帛に書す』よりも自分に合うと思って、ここにご紹介した次第です。JSTORでもダウンロードして読めるので、お暇な時にご一覧ください。

    私も、その百度の記事を読んで驚いた口です。

    学退上

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