単語家族の考え方


すべての漢字のうち、その多数を占めるのが、形声字です。形声字は、カテゴリーを示す「意符」と発音を示す「声符」との組み合わせから成る字です。

『説文解字』の説解においては、形声字が「なになにの声」と表記されており、それが形声字であると容易に分かります。

そして、「声符」(「諧声符」とも)は単に発音を表すだけでなく、その語の持つ感覚をも表すことが知られています。それゆえ、同じ「声符」を持つ複数の字は、たがいに共通する感覚をもっています。

『説文解字』に見える、「声符」を共有する字のグループを網羅的に抽出した学者がいます。清の朱駿声(1788-1858)です。彼の著作、『説文解字通訓定声』は、『説文解字』収録字を発音に基づいて18のグループに分け、さらにそれぞれのグループを「声符」ごとに整理したものです。声符の持つ意味を探ろうとする時に、たいへん有効な道具となります。

前回のエントリ、「閣の字義」では、「閣」字に含まれる声符「各」に注目しました。いま、『説文解字通訓定声』を見ると、その「豫部弟九」に、「各」を声符に持つ字、37字を並べています。以下にそれらを掲げます(括弧の中は、『説文解字』の篇数、部。及び大徐本に見える反切です)。

  1. 各 異辭也。从口夂。夂者,有行而止之,不相聽也。(2篇,口部。古洛切)
  2. 茖 艸也。从艸各聲。(1篇,艸部。古額切)
  3. 路 道也。从足从各。(2篇,足部。洛故切)
  4. 詻  論訟也。《傳》曰:「詻詻孔子容」。从言各聲。(3篇,言部。五陌切)
  5. 𩊚 生革可以爲縷束也。从革各聲。(3篇,革部。盧各切)
  6. 䀩 眄也。从目各聲。(4篇,目部。盧各切)
  7. 雒 鵋䳢也。从隹各聲。(4篇,隹部。盧各切)
  8. 鵅 烏鸔也。从鳥各聲。(4篇,鳥部。盧各切)
  9. 骼 禽獸之骨曰骼。从骨各聲。(4篇,骨部。古覈切)
  10. 胳 亦下也。从肉各聲。(4篇,肉部。古洛切)
  11. 𠲱 枝𠲱也。从丯各聲。(4篇,丯部。古百切)
  12. 觡 骨角之名也。从角各聲。(4篇,角部。古百切)
  13. 笿 桮笿也。从竹各聲。(5篇,竹部。盧各切)
  14. 格 木長皃。从木各聲。(6篇,木部。古百切)
  15. 賂 遺也。从貝各聲。(6篇,貝部。洛故切)
  16. 客 寄也。从宀各聲。(7篇,宀部。苦格切)
  17. 頟 顙也。从頁各聲。(9篇,頁部。五陌切)
  18. 貉 北方豸穜。从豸各聲。孔子曰:「貉之爲言惡也」。(9篇,豸部。莫白切)
  19. 駱 馬白色黑鬣尾也。从馬各聲。(10篇,馬部。盧各切)
  20. 䶅 䶅鼠,出胡地。皮可作裘。从鼠各聲。(10篇,鼠部。下各切)
  21. 洛 水。出左馮翊歸德北夷界中,東南入渭。从水各聲。(11篇,水部。盧各切)
  22. 𩂣 雨𩂣也。从雨各聲。(11篇,雨部。盧各切)
  23. 鮥 叔鮪也。从魚各聲。(11篇,魚部。盧各切)
  24. 閣 所以止扉也。从門各聲。(12篇,門部。古洛切)
  25. 挌 擊也。从手各聲。(12篇,手部。古覈切)
  26. 絡 絮也。一曰麻未漚也。从糸各聲。(13篇,糸部。盧各切)
  27. 垎 水乾也。一曰堅也。从土各聲。(13篇,土部。胡格切)
  28. 略 經略土地也。从田各聲。(13篇,田部。烏約切。段注作离約切)
  29. 鉻 𩮜也。从金各聲。(14篇,金部。盧各切)
  30. 輅 車軨前橫木也。从車各聲。(14篇,車部。洛故切)
  31. 璐 玉也。从玉路聲。(1篇,玉部。洛故切)
  32. 鷺 白鷺也。从鳥路聲。(4篇,鳥部。洛故切)
  33. 簬 箘簬也。从竹路聲。《夏書》曰:「惟箘簬楛」。簵,古文簬从輅。(5篇,竹部。洛故切)
  34. 潞 冀州浸也。上黨有潞縣。从水路聲。(11篇,水部。洛故切)
  35. 露 潤澤也。从雨路聲。(11篇,雨部。洛故切)
  36. 愙 敬也。从心客聲。《春秋傳》曰:「以陳備三愙」。(10篇,心部。苦各切)
  37. 落 凡艸曰零,木曰落。从艸洛聲。(1篇,艸部。盧各切)

これらの37字は、いずれも「各」を声符として持っており、何らかの共通性があると、一応、考えることができます。

しかしこれだけでは、それらの字が共有する基本的な意味は明らかになりません。そこで有効なのが、近代になってから発達した、「単語家族」の研究です。

「単語家族」とは、伝統的な「声符」研究を基礎としつつ、さらに音韻論に基づいて漢字の古音を研究することにより、字音ならびに意味の共通する複数の字を「家族」として認める考え方です。その代表的な成果は、藤堂明保氏の『漢字語源辞典』(學燈社,1965年)であろうと思います。

「単語家族」の考え方は、伝統的な「声符」研究と重なる面も大きいのですが、同一ではありません。詳しい内容は、前掲書の「序説」をご覧いただくとして、「声符」との関連において、次の2点だけ、ここで指摘しておきたいと思います。

  • 同じ声符を持たない字でも、字音に共通性があれば、「単語家族」を構成する。
  • 同じ声符を持つ字でも、声母(語頭の子音)が異なれば、分けて別の「単語家族」と考える。

「各」字を声符として持つ字は、『漢字語源辞典』を見ると、次の二つのグループに分かれています。

  • 第94の家族:「両・量・梁・略・路〔ふたつ対(つい)をなす〕」。古い音はLANG, LAK。
  • 第101の家族:「古・固・各・行・亢・岡・京・庚〔かたい,まっすぐ〕」。古い音はKAG, KAK, KANG。

このふたつの家族は、大分類上、同じく「V 魚部・陽部」のグループに属しており、互いに近い関係にありますが、藤堂氏によれば、ふたつに分けて考えられる、というわけです。

なお、『漢字語源辞典』は、すべての字について「家族分け」を行っているわけではなく、この辞典を調べればただちに漢字の原義が分かるというものではありません。しかしながら、「字音が語義を表している」という考え方自体は、ゆるぎないものであるように、私には思われます。

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