「各=ひっかかる」


前回、紹介したとおり、藤堂明保氏の『漢字語源辞典』(學燈社,1965年)は「単語家族」という考え方に基づき、漢字の古義を考察したものです。

同書にはあわせて223の「単語家族」が列挙されていますが、「各」の字は、そのうち第101の家族に入っています。

第101の家族:「古・固・各・行・亢・岡・京・庚〔かたい,まっすぐ〕」。古い音はKAG, KAK, KANG。

そして、「各」の字は、次のように説明されています。

各は、「夂あし+口」の会意文字である(この足を引きずる形は、愛や憂の下部に含まれている)。□印はクチではなくて、石のごとき物、またはある地点を示す記号であろう。各の字は、金文や甲骨では、「いたる」(格)という意味に用いられる。しかし原義は、足先が固い石に届いて、「ひっかかる」さまを表わすといってよい。つまずく姿と考えてもよい。のちひっかかることを「支格」という。「某処にイタル」との意味は、そこからの派生義である。ところで、柔らかい物には、ひっかからない。つかえるのは固い物に限る。各の系列は、その点で古の系列と縁が深い。(pp.386-387)

つまり、各とは、石のような何かに足先が「ひっかかる」様子だというわけです。

なお藤堂氏は、さらに次のように注記しています。

各は固くゴロゴロした小石状の物を意味する。小石状の物は固まって別々に存在する。ところで、箇は固い竹であり、個は別々に固く領域を分かって孤立する物である。個別の個(箇)と、各別の各とは、きわめて縁が近い。各が副詞となってオノオノという意味を表わすようになるのはそのためである。なお各〔k-〕―落・洛〔l-〕のように、この諧声系列は、k,lの双方に関係するので、Karlgren氏は各*klak、落*glakという語形を推定している。(p.387)

ここで「各は固くゴロゴロした小石状の物を意味する」というのは、おそらくは各の字の下にある四角形についていうものと思われます。そうであるならば、「個」や「箇」と近いというのは、むしろ、「各」の派生的な意味であろうと考えられます。

藤堂氏は「客」字についても、「ひと所に住んで動かぬ人を主人といい、たまたま訪れて、そこにひっかかって寄留する人を客という。客は格(いたる、つかえる)と同系のコトバであり、各の原義(足がつかえる)をよく保存したコトバである」といっています(p.387)。

さらに「閣」字を説いて、「あけた扉をひっかけて固定させるくい。とじた扉を行きすぎぬよう止める臬をも閣という。北京語の擱(おく)という動詞はその系統を引くことば」ともいっています。

「各」(ひっかかるさま)、「客」(ひっかかって寄留する人)、「閣」(ひっかけて固定させるくい)というように、個別に字について、藤堂氏は「ひっかかる」様子を強調しています。では「ひっかかる」意と、「かたい」を意味する「古」の系列の字とが、どのように意味的につながるのか。前述のように、「柔らかい物には、ひっかからない。つかえるのは固い物に限る」と藤堂氏はいいますが、これでは十分に理解できません。kを声母とし「各」を含む字を、藤堂氏は「ひっかかる」と理解した。ひとまず、その点だけを確認しておきたいと思います。

「各」とは「ひっかかる」さまである。この解釈は、藤堂氏独自のものではなく、明らかに『説文解字』の「各,異辭也。从口夂。夂者,有行而止之,不相聽也」に基づくものでありましょう(上述の通り、「各」の下部を、藤堂氏は口でないと考える違いはあるものの)。

私自身としては、ここであらためて『説文解字』に立ち戻り、許慎の意図を探りたいのですが、それは先のこととさせていただきます。

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