千慮の一失


「一曰相臣」
「一曰相臣」

昨日、土曜日の午前中に、同好の人が集まって段玉裁『説文解字注』の読書会を開き、その席で、白須裕之先生にたいへん面白いことを教えていただきました。

『説文解字』三下、攴部「徹」字は、段注本では次のようになっています。

通也。从彳、从攴、从育。一曰相臣。

末尾の「一曰相臣」に注をつけて、段玉裁は「疑有譌。鉉本無此四字」と言います。

そもそも段氏が『説文解字』を校訂した際、徐鉉が校訂した「大徐本」と呼ばれる本文を基礎とし、徐鍇『説文解字繫傳』(「小徐本」)などの本文を参照して、定本を作りました。大徐本や小徐本の詳細につきましては、頼惟勤『説文入門』(大修館書店、1983年)の第1章をご参照ください。

この部分につき、大徐本(鉉本)に「一曰相臣(一説によると、徹とは大臣のこと)」の句がない、というわけです。確かに様々な大徐本は、ただ「通也。从彳、从攴、从育」とのみ作っています。

この部分、段氏が小徐本によって補ったものと推測できるのですが、なんとなんと、確認してみると、小徐本では「一曰相」とするのみで、「臣」は下の文に続いているのです。

以上の指摘を白須先生からいただき、驚いた次第です。ケアレス・ミスに属する誤りであり、普通の学者ならばしばしば犯す失敗なのですが、綿密な考証を得意とする大学者、段玉裁には実に似つかわしくないものと感じられました。