選曹七貴


『資治通鑑』によると、隋の煬帝の大業二年(606)頃のこと、本来、人事を統括すべき吏部尚書の地位にあった牛弘(545-610)は、その職務を一人で行うことを許されませんでした。牛弘は、蘇威(542-623)、張瑾(?- ?)、宇文述(?-616)、裴矩(557-627)、裴蘊(? -618)、虞世基(? -618)の六人とともに合議によって人事を行い、時の人は彼らを「選曹七貴」と呼んだ、とのこと。

時牛弘為吏部尚書,不得專行其職,別敕納言蘇威、左翊衞大將軍宇文述、左驍衞大將軍張瑾、内史侍郎虞世基、御史大夫裴蘊、黄門侍郎裴矩參掌選事,時人謂之「選曹七貴」。雖七人同在坐,然與奪之筆,虞世基獨專之,受納賄賂,多者超越等倫,無者注色而已。(『資治通鑑』卷一百八十,隋紀四,大業二年)

『資治通鑑』の記事は、主に正史に基づく部分が多いのですが、しかし、「選曹七貴」は『隋書』に記載がなく、代わりに「五貴」に関する記事が『隋書』蘇威伝に見えます。

煬帝嗣位,加上大將軍。及長城之役,威諫止之。高熲、賀若弼等之誅也,威坐與相連,免官。歳餘,拜魯郡太守。俄召還,參預朝政。未幾,拜太常卿。其年從征吐谷渾,進位左光祿大夫。帝以威先朝舊臣,漸加委任。後歳餘,復為納言。與左翊衞大將軍宇文述、黄門侍郎裴矩、御史大夫裴蘊、内史侍郎虞世基參掌朝政,時人稱為「五貴」。(『隋書』卷四十一,蘇威傳)

「五貴」をもとに、牛弘と張瑾(この人物はなぜか『隋書』に立伝されていません)の二人を足して、『資治通鑑』は「七貴」を仕立てたものとも見えます。

また『隋書』虞世基伝にも、虞世基が蘇威、宇文述、裴矩、裴蘊らと「朝政を參掌」した、とあります。

帝重其才,親禮逾厚,專典機密,與納言蘇威、左翊衞大將軍宇文述、黄門侍郎裴矩、御史大夫裴蘊等參掌朝政。

さらに虞世基伝には、「鬻官賣獄,賄賂公行,其門如市,金寶盈積」と見えており、これが、虞世基による乱脈人事と結びつけられ、『資治通鑑』の記事が綴られているのかも知れません。なお、この虞世基という人物、有名な虞世南の兄です。

ここで気になるのは時期のことで、『資治通鑑』は「選曹七貴」を大業二年に繫年しているのですが、かりに「選曹七貴」のような実態が存在したとしても、それは大業五年か六年のことではないかと思います。大業五年のこととして、煬帝が蘇威と牛弘の二人に、「清名天下第一の者」について下問しています。

大業五年入朝,郡國畢集,帝謂納言蘇威、吏部尚書牛弘曰:「其中清名天下第一者為誰?」威等以儉對。(『隋書』卷七十三,柳儉傳)

実は、蘇威は大業三年七月に一度、失脚しており、その後、(正確には分かりませんが)大業五年までには納言の職位にもどっています。『隋書』蘇威伝では、「五貴」のことをはっきりと蘇威の復帰以後のこととしていますが、『資治通鑑』は失脚前のことと誤って、大業二年に繫年したようです。

また、裴蘊が戸籍調査を徹底させ、「新附口六十四萬一千五百」を得て、その功績により御史大夫に抜擢された、というのも大業五年のことです(『隋書』卷六十七,裴蘊傳)。

『隋書』のこれらの資料を総合すると、「選曹七貴」と時人が呼んだことがもしあったとしても、それは大業五年か、もしくは六年のこととしか考えられません。当の牛弘は、大業六年十二月に逝去しました。時期については『資治通鑑』が誤っているはずです。

時期の話はともかく、「選曹七貴」というのは、ある種のフィクションではないかと私は思うのです。吏部侍郎の牛弘には人事の実権がなく、実は虞世基が人事を壟断し、賄賂を取って勝手に決めていた。そうでありながら彼ら七人が「選曹七貴」と呼ばれていた、というのでは、よく話が分かりません。

『資治通鑑』は(特に隋の記事については)正史以外の史料も参照していますから、すでに失われた有力な史料には確かに「選曹七貴」のことが書かれていたのかもしれません。その可能性は皆無ではありません。

しかし、如何でしょうか。この「選曹七貴」の話、「五貴」の評判と虞世基の不正人事の話(『隋書』を読むと、虞世基の妻の収賄のようなのですが)とを無理に取り合わせたものではないか。そう思えてなりません。

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