『漢文研究法』


狩野直喜(1868-1947)『漢文研究法』(みすず書房, 1979)は、漢籍の入門書として恰好のもので、わたくしの周りにも多くの愛読者がいます。

構成は以下の通り。

  • 漢文研究法
  • 經史子概要
  • 漢文釋例
  • 解說・索引

白眉は何といっても本書の書名にもなっている「漢文研究法」でしょう。大正三年(1914)8月1日から6日にかけて、「京都帝国大学第五回夏季講演会」において講演されたもので、「中等教育に従事し、漢文の授業を担当さるる方が少なくなかった」らしい、とのこと(本書、狩野直禎氏「解説」に拠ります)。

今から100年前の講演、というわけです。

この講演については、狩野直禎氏「解説」が最も簡にして要を得ています。

『漢文研究法』の大きな部分が目録書と類書の叙述にさかれていること、読者の直ちに気づかれる所であろう。それは汗牛充棟ただならぬ典籍をいかに有効に利用するか、そのためには目録書を見る事が必要であり、又その典籍に書かれた内容を正確に理解するには、中国の詩文作成の特徴をなす典拠を明にせねばならず、そのための手段として類書が要求されるからである。(本書、p.172)

たまに読み返してみるのですが、いつも説明の流暢さに感嘆してしまいます。こういう具合に講義ができれば、どんなによいことか。

浩瀚な典籍につき己の知らんとする事を求む、又其の典籍の価値を知るに尤も必要なるは、典籍の目録に通ずる事なり。……結局目録は吾人に或る書に対する種々の注意を与ふるものにて、縦令ば吾人は其の内容を読まずとも、其の書の大体に就いて智識を得ることが出来る。(本書、p.12)

「目録学は重要」という能書きは、漢学者ならば誰でも知っており、しばしば口にさえする言葉です。しかし、目録を見さえすれば「縦令ば吾人は其の内容を読まずとも、其の書の大体に就いて智識を得ることが出来る」とは、なかなか言えない言葉です。読書に際して実に役立つアドバイスだと感じます。

類書や叢書、訓詁についての説明も同様で、読書に役立つことばかりが書いてあります。

吾輩が書を読みて普通に其字を調べ、又訓詁を知るには『康煕字典』でもよろし。併しあれは極めて出来の悪いものとなつて居るので、少し古典でも読みて、真正に其訓詁を知らんとするには使用すべからず。別によきものあり。即ち阮元の作りし『経籍籑詁』といふものあり。(本書、p.92)

といった様子。このような概説が100年後の今も通用することに驚いてしまいます。もちろん、100年の間にさまざまな歴史的展開があり、認識が変わった部分も多いのでしょうが、わたくしはむしろ変わらぬ部分に驚嘆するのです。

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