カテゴリー別アーカイブ: 工具書

『漢字古音手冊』増訂本


漢字の上古音、中古音をちょっと確認したいときに便利な郭錫良『漢字古音手冊』。以前、「文言基礎」で『千字文』を読んだときに、ご紹介しました。王力の学説に基づいて漢字音を分析し、推定音価を記しています。

今年、その増訂本が出版されました。郭錫良編著『漢字古音手冊(增訂本)』、商務印書館、2010年8月。中国の友人にたずねたところ、「ずいぶん収録字数が増えているらしい」とのことでしたので、一冊、買い求めました。

ページ数は、旧版(北京大学出版社、1986年)が345ページ、增訂版が535ページと、厚くなっています。収録字数は、旧版が8000字程度、增訂版は11000字程度、とのこと(「增訂本前言」による)。また旧版では、中古音については、『広韻』の反切のみをとっていましたが、增訂版は、『広韻』に載らない反切を『集韻』からとっており、情報が豊富になっています。さらに、誤植なども訂正してあるようです。

『説文解字』の部首、540部を覚えようと思い立った私は、まず、その540部の部首の発音を確認しました。手順は、まず大徐本と呼ばれる系統の『説文解字』に見える反切を抜き出し、それに対応する現代音を求め、さらに本書、『漢字古音手冊』を利用して、上古音の声母と韻部とを確かめる、というものです。段注も適宜、参照しました。

非常に好都合なことに、この增訂本では、「『説文解字』の収録字はすべて収録した」(「增訂本前言」)と言っており、『説文』収録字を調べるのに便利です。ただし、私が540字について当たってみたところ、『説文』収録字をすべて収めてあるわけではなく、落ちている字もかなりの数ありました。「㸚 lǐ」「𣎵 pò」「𠑹 gǔ」など。さほど大きな問題でもありませんが。

買ってすぐにこれほど酷使するとは思いませんでしたが、さっそく大活躍してくれました。少しくたびれてしまいましたが、よく手になじむようになりました。

なお、郭氏の「增訂本前言」は29ページに及ぶ長文であり、専門的な内容で読みごたえはあるのですが、読むのにちょっと苦労しました。

*郭錫良編著『漢字古音手冊(增訂本)』、商務印書館、2010年8月、Webcat所蔵館は0館(本日付)。日本の大学図書館では、まだ登録が済んでいないのでしょうか。

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『三礼辞典』


礼は巨大なシステムであり、生活の細部から国家の儀礼まで、実に多岐にわたっており、しかも複雑です。「三礼」と呼ばれる経典、『周礼』『儀礼』『礼記』はありますが、通読は事実上、困難です。概説書などを読む必要があるゆえんです。

さてその礼には、多くの術語があります。たくさんの術語はいかにも面倒ですが、いたしかたのないところです。彭林氏の『中国古代礼儀文明』は確かに詳しく礼の説明をしていますが、そうであるがゆえにこそ、大量の礼の術語であふれています。「含」「踊」「引」「大功」「小功」「緦麻」「重首」「免」等々。礼に詳しくない人は、きっと戸惑うことでしょう。

そういう時に、礼の専門的な辞典があると心強いものです。おすすめしたいのが、銭玄、銭興奇『三礼辞典』(江蘇古籍出版社, 1993)です。凡例の第一条には次のようにあります。

本辞典は、専書辞典である。『儀礼』『周礼』『礼記』『大戴礼』の四書の、典章・制度・礼制・名物に関わる専門用語、約5000条を収録した。四部の礼書やその他の古籍を読み、また上古時代の社会文化史を研究する便に供した。

「専書辞典」とは、特定の書物を対象とした辞典のこと。中国ではたくさんの「専書辞典」が出版されていますが、玉石混淆、すすめられるものばかりではありません。しかし『三礼辞典』は礼書を読むための、実によい手引きです。

礼の言葉、5000条の収録数は少なくありませんが、数が多いだけでは十分でありません。説を周到に集め、しかも適宜整理して示す必要があります。本書の序文には次のように言います。

専書の辞典の場合、その重要な任務は先人の研究成果を総括することにある。しかし、礼書(の解釈)は諸説紛々たるありさまで、自分の師法をもととするものがあり、さらに同じ師承関係にありながら説が異なるものまである。また、古籍を集めてきては、自説にこじつけたりもする。説には純粋なもの雑駁なものが入り交じっており、慎重に選択を加える必要がある。説のうち、採用すべきものは、みな載せておいた。理に合うものは詳しく敷衍して延べ、合わないものは理屈にしたがって正し、従うべき説、そうでない説を定めた。実物によって証明できるものについても、その是非を断じた。

『辞源』などの辞書にも、礼の言葉はある程度、載っているものの、説の当否を詳しく検討したりはしていないので、是非とも専門的な辞書の欲しいところです。

笑い話をひとつ。中国大陸では、文革中(1966-1976)、儒教だ礼だなどと言うのは、むろん御法度でしたが、その十年の動乱も一段落した後、ある学者が礼書の整理、標点を行いました。その礼書には、「祼」(guan4、漢音でカンと読みます)の礼が取りあげられていたそうです。『三礼辞典』によると、「圭瓉(玉製の酒器)を以て鬱鬯(におい酒)を酌みて地に灌(そそ)ぎ以て神を降(おろ)す、之を祼と謂う。宗廟の祭祀に常用す」とのことです(p.844)。ところが、点校を担当したその先生、シメスヘンの「祼」の字をコロモヘンの「裸」の字と思いこみ、ことごとくハダカにしてしまったそうです。『礼記』祭統の「祼尸」も、すべて「裸尸」になってしまったとか。

当時、このようなよい辞典があれば、かかずにすんだ恥であったかも知れません。同時に、文革による学問の荒廃も、そうとうに深刻であったことがうかがわれます。

*『三禮辭典』錢玄、錢興奇編著,江蘇古籍出版社,1993,Webcat所蔵館は32館(本日付)。

『古代漢語虚詞詞典』を使う


 私の別ブログ「文言基礎」にて、『古代漢語虚詞詞典』(商務印書館、1999)を使って、『詩経』の「摽有梅」と「有蕡其實」の「有」字をそれぞれ調べてみました。

 『詩経』の虚詞は、慣れないと分かりづらいと思いますが、『古代漢語虚詞詞典』をこまめに引けば、身につくはずです。使い方の一例として紹介しました。

『古代漢語虚詞詞典』の附録


このところ当ブログで取り上げている、中国社会科学院語言研究所古代漢語研究室『古代漢語虚詞詞典』(商務印書館)の話題の続きです。

この書物の附録、といっても、ただ「主要参考書目」と「例句引用古籍書目」の二つ、ページにしてわずか20ページほどのものに過ぎません。しかしながら、こうして二つの目録を添えたことは、とても良心的なものと感じられます。

まず、「主要参考書目」。『説文解字』から『広釈詞』まで、47種の語学書が、時代順に並べてあります。『説文解字』『広韻』など、古代の辞書が見えるのはもちろん、そして段玉裁『説文解字注』など、伝統的な小学研究が見えるのも当然ですが、それらとともに、馬建忠『馬氏文通』、呂叔湘『文言虚字』など、近代的な研究書が連ねられています。

いうまでもなく、先行研究をまとめれば書物になる訳ではありませんから、これら47種の参考書を読めば『古代漢語虚詞詞典』が出来るわけではないのですが、このブック・リストを一つの参考として、語学書を書架に備えてみるのもよいかも知れません(完備を目指す、という意味ではなく)。

呂叔湘『文言虚字』(上海教育出版社、1959)は、私の好きな書物の一つです。私の持っている本(上海教育出版社、1978)は、150ページほどの薄いもので、本文は112ページしかありませんが、その内容は充実しています。そのうち、このブログでも取り上げます。

『文言虚字』は代表的な虚字、24字について微に入り細をうがって説明した解説です。両書をつきあわせて確認してみますと、『古代漢語虚詞詞典』には、『文言虚字』の内容が十分に取り入れられていると思われました(素人考えなので、いい加減なことを言うと、文法学者に叱られるかも知れませんが)。やや煩瑣にわたる『文言虚字』の解説をこうしてうまく整理するとは、恐れ入ったものです。

もう一つの附録、「例句引用古籍書目」は、本書に大量に引用される、古典の例句の厳密な出典を一覧表にしたものです。出典が古くは金文・経書から、新しくは章炳麟に及んでいることにも驚かされますが、特筆すべきは、それぞれについて、善本・精校本を選んで引用していることです。虚詞のような微妙なものは、異文を生じやすく、特に慎重に扱うべきでしょうから、依拠した版本が明記されているのは、ありがたいことです。良い校本がある場合はそれを、良い校本がない場合は『四部叢刊』本などの善本を選ぶなど、丁寧な様子がうかがわれます。

『古代漢語虚詞詞典』


中国社会科学院語言研究所古代漢語研究室『古代漢語虚詞詞典』(商務印書館)は、とても良い虚詞の辞典です。

  1. 虚詞の原義に始まり、その後の歴史的な変遷を概観してあること。
  2. 品詞を区別し、さらにその意味・用法を適切に(簡単すぎず・煩瑣すぎず)分けて記述し、文における位置と機能を明記していること。
  3. 用例の選択が厳密であり、用例が豊富であること。

これだけの条件を満たす辞典は多くありません。「虚詞なら『漢語大詞典』を見ればよい」という人もいますが、『漢語大詞典』はこれらの条件を満たしていません。

凡例によると、次の合計1855条の虚詞を収めています。

  • 単音虚詞が762条
  • 複合虚詞が491条
  • 慣用詞組が289条
  • 固定格式が313条

単音虚詞というのは、どの虚詞辞典にも収める「于」「所」「以」などですが、複合虚詞・慣用詞組・固定格式については説明が要りますから、少し例を挙げましょう。

複合虚詞とは、「庶幾」「然則」など。「庶幾」は二字で副詞となり、「然則」は二字で連詞となります。

慣用詞組とは、「非唯」「如何」など。それぞれ二字でひとつの品詞とならず、「非唯」は副詞「非」と副詞「唯」とを結合させたもの、「如何」は動詞「如」と疑問代詞「何」とを結合させたもの。慣用的に二字同士で結びつくことが多いが、文法上、二字でひとつの詞として扱われない点で、複合虚詞と異なります。

固定格式とは、「既…又…」「雖…然…」など、一定の呼応関係をもつもの。

以上のように、単音(単字)の虚詞のみならず、複音の虚詞を収録している点も、本書の特徴です。実用上、この方が便利です。

本書の序文によると、本書の編者の多くは、『古代漢語虚詞通釈』(何楽士・敖鏡浩・王克仲・麦梅翹・王海棻 編、北京出版社、1985年)の編者と共通する、とのことです。しかし、『古代漢語虚詞通釈』の蕪雑さとは比較にならないほど、本書『古代漢語虚詞詞典』はよく整理されています。

*中国社会科学院語言研究所古代漢語研究室『古代漢語虚詞詞典』(商務印書館、1999年) Webcat所蔵図書館は39館(本日付)。

虚詞の辞典


文言文を学ぶとき、虚詞(虚字とも)の学習が必要であると、よく説かれます。必要である理由を、思いつくままに挙げてみましょう。

  1. 韻文・散文を問わず、非常に高い頻度で文中にあらわれる。特定の一文字について言うと、実詞(名詞・数詞・動詞・形容詞)のそれと比較した場合、非常に高い頻度で登場します。
  2. 虚詞こそが、文の細かい表情を決定する。訓読ですますわけにゆかないゆえんです。
  3. 意味・用法が多岐にわたり、複雑であり、時代的な変遷も大きい。虚詞の辞書が必要です。

このように、虚詞の学習は特に必要なのですが、以前、別サイト「文言基礎」で『千字文』を読んだ際には、この問題にはほとんど触れませんでした。これには訳があります。『千字文』は、「重複しない千字を用いて韻文を作る」方針に貫かれていますので、他の文と比較して、極端に虚詞が少ないのです。それゆえ、虚詞の学習のためには、よい教材であるとは到底言えません。そこで、『千字文』学習中は、この問題に触れませんでした。

では、どのように虚詞を学べばよいのか。基本的には、ご自分の興味に従って(または演習の準備であってもよいのですが)文言文を読み進め、虚詞に気づいたら、こまめに虚詞の辞典を調べることです。その説明をよく読んで、特に用法に注意する必要があります。

ただ世の中には、非常に多くの文言虚詞の辞書が存在します。私もあれこれ購入し、試行錯誤しました。書棚の整理を兼ねて、主なものを分類してみます。

  1. 古典的虚詞辞典(経書・先秦諸子を読むため) 劉淇『助字辨略』。王引之『経伝釈詞』。呉昌瑩『経詞衍釈』。
  2. 詩文(読解・作文)のための虚詞辞典 張相『詩詞曲語辞匯釈』。王鍈『詩詞曲語辞例釈』。
  3. 俗語などを読むための虚詞辞典 蒋礼鴻『敦煌変文字義通釈』。江藍生『魏晋南北朝小説詞語匯釈』。王雲路・方一新『中古漢語語詞例釋』。『唐五代語言詞典』『宋語言詞典』『元語言詞典』。他にも多数ありますが、よく知らないので省きます。
  4. 汎用的虚詞辞典 楊樹達『詞詮』。裴学海『古書虚字集釈』。韓崢嶸『古漢語虚詞手册』。何楽士『文言虚詞浅釈』。何楽士『古代漢語虚詞通釈』。中国社会科学院語言研究所古代漢語研究室『古代漢語虚詞詞典』。

しばしば虚詞の重要性について語られはするものの、ただ、これらの工具を上手に使いこなしている方はあまり多くないようです。読んでいる書物と、使っている虚詞辞典が合わないことが、一つの問題点であろうと思います。『経伝釈詞』は経書を読むためには非常によい手引きですが、詩を作ろうという人が使っては間尺に合いません。同様に、特殊な口語的表現を一般用の虚詞辞典で調べたところで、載ってはいません。

なお、上記の『助字辨略』『経伝釈詞』『詞詮』などを再編集してまとめた、『虚詞詁林』、『古書虚詞通解』というものがあります。便利な書物ではありますが、相当慣れた人(それぞれの虚詞辞典の個性を把握して使いこなしている人)でないと、とても御せるものではありません。

一般的な工具書として、一冊だけ推薦するなら、中国社会科学院『古代漢語虚詞詞典』(商務印書館、1999年)を挙げます。現代的で、なかなかうまく編輯されていると思います。後は対象とする文献に応じて、他のものをご参照下さい。

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符定一『聯緜字典』


双声・畳韻語を調べようとするとき、便利な辞書が二つあります。一つは『辞通』、これについては、このブログでもすでに取り上げました。もう一つが、今日ご紹介する、『聯緜字典』です。

『聯緜字典』には、双声・畳韻語を豊富に収めます。ただし、1983年に北京の中華書局から重印された際に付けられた「重印説明」にも見えるとおり、双声・畳韻語にとどまらず、より広い範囲に及ぶ「双音節詞」(要するに二字熟語です)をも含めて「聯緜詞」と呼び、本書に収録しています。

著者の符定一(1877-1958)は、湖南省衡山県の人。「重印説明」によると、32歳の頃(1910)に聯緜詞の蒐集を開始し、62歳の年(1940)に本書を完成させた、とのことです。一人の人物が自力で完成させた辞典というものは、その出来上がりがどのようなものであれ、尋常ならぬ執着と熱意を感じさせるものですが、本書『聯緜字典』もその例にもれません。

本書には「叙例」として、黄侃(こうかん)の序、王樹枏(おうじゅなん)の序、自序、凡例、後序を載せます。このうち、凡例に付けられた補記が面白いので、その一部を訓読して掲げてみましょう。

 民二十一年(1932)夏、黄侃(1886-1935)は乱を避けて平(北平、北京のこと)に居る。時に相い過従し、毎(つね)に見るに必ず曰く「君の書の凡例、事事に允当たり、語語に内行たり。湖南の人の学を治むるや、従(かつ)て未だ精核なること此の若(ごと)き者有らず」と。……。定一按ずるに、凡例は均しく黄君の審核を経るも、唯だ弟五・弟十三・弟十四・弟二十二の四事のみ、後来の増す所にして、黄君 未だ之を見ざる也。其の高足の弟子、陸宗達(1905-1988)、四事を見て極めて以て善と為す。蓋し能く其の師法を守る者かな。民廿九年(1940)孟春、定一 補して志(しる)す。

この補記は、9歳年下の黄侃と自分との関係のみを語っています。なぜ符定一は、それほど黄侃にこだわるのか。それを知るには清朝考証学に占める、江蘇・安徽・浙江三省の特別な地位について知る必要があります。吉川幸次郎の「清代三省の学術」(全集、巻16、所収)を読んでみてください。こと小学(古代中国語研究)に関しては、この三省以外の出身者の預かるところではなかったほど、圧倒的な実力差があったのです。

黄侃は湖北省の出身です。しかし彼は、浙江の産んだ知の巨人、章炳麟(章太炎とも。1869-1936)の第一の弟子でした。その意味では、民国二十年代当時、清朝小学を強く受け継いだ学問を最もよく体得していた人物の一人でした。その黄侃から「湖南の人の学を治むるや、従て未だ精核なること此の若き者有らず」と認可を得たことは、符定一にとって特別な意味があったわけです。「湖南出身でも、ここまで出来たぞ!」という喜びの表現です。

ただし符定一の学識は、本人の自負とは裏腹に、真に卓越したものであったとは言えないようです。『辞海』は同書を説明して、「但收詞并非都是聯緜詞,論字体完全墨守『説文』,是其缺点」とあります。強引な点もしばしば指摘されます。

そういう意味では、本書を工具書の中心に据えることは避けた方がよいでしょう。私はあくまで『辞通』の補佐として使い、独特な説が見えるときは慎重にあつかうようにしています。資料をよく集めているので、知見を広めるにはよいと思います。

筆名大王のこと


 近代中国の人物について調べようとするとき、私が真っ先に見るのは、陳玉堂『中国近現代人物名号大辞典』(浙江古籍出版社、1993年)です。

 中国の伝統的な文人は、自称・他称を含め、さまざまな呼称を持っています。なかでも号などというのは、なかなか調べにくいものです。

 清朝の人物については、楊廷福・楊同甫編『清人室名別称字号索引』(上海古籍出版社、1988年)がよく使われます。しかしこの書物は、単にそれぞれの個人の本籍・アザナ・号・別称・室名などを表にしているに過ぎません。使いようはありますが、限られています。

 一方の『中国近現代人物名号大辞典』は、本籍・アザナ・号・別称・室名以外に、生卒年・幼名・略歴・著書・親族などを網羅的に挙げています。しかも、号などがいつどこで使用されたのか、周到に根拠を挙げてあります。

 たとえば黄侃(1886,一作1887-1935)に異名が多いのは有名ですが、『中国近現代人物名号大辞典』によると、次のように列挙できます(根拠は省略します)。

 幼名:緒琳
 譜名:喬馨
 学名:喬鼐
 字:季剛
 早字:梅君
 又字:禾子・季子・季康
 号:運甓・運甓生
 別署・筆名:曠処士・病蝉・病禅・剛翁・不侫・鼎苹・鼎革・鼎莘・奇恣・奇談・信川・静婉・盛唐山民・黄十公子・亦陶・量守居士・寄勤閑室主人
 室名:六祝齋・雲悲海思廬・仰山堂・橋秀庵・寄勤閑室・量守廬・感鞠廬・楚秀庵・?秋室・?秋華・?華室・?秋華室

 まあ、この調子で一万人以上の人を調べ上げているわけです。「作者簡介」によると、「陳玉堂、アザナは書石、別号は紫琅山民・百盂齋主。1924年生まれ。江蘇南通の人。上海社会科学院文学研究所副研究員、九三学社社員。長きにわたり中国近現代の人物伝記資料及び別名・筆名の蒐集と研究に従事し、「筆名大王」の誉れを有する」云々とあります(より詳しくは、こちらから)。すごい執念を感じます。

 この書物はたいへんに便利なものなので、私は「大王、大王」と敬愛して止みません。増訂版が出ていますが、旧版を愛するあまり、なかなか新版に乗り換えられません。

*『中國近現代人物名號大辭典』(浙江古籍出版社、1993) Webcat所蔵図書館 65館(本日付)。

*『中國近現代人物名號大辭典』(浙江古籍出版社、全編増訂本、2005) Webcat所蔵図書館 28館(本日付)。