『文史通義校注』の整理者


京都大学人文科学研究所の研究班として、私どものグループは2015年以来、章学誠『文史通義』の訳注に取り組んでおり、そのことはこのブログでも何度か触れたことがあります。

会読の際には、葉瑛『文史通義校注』(中華書局、1985年5月)という定評ある注釈書を利用してきました。この葉瑛の校注についても、以前、言及したことがあります

葉瑛(1896-1950)は、安徽桐城の人。呉淞中国公学・天津南開学校・武漢大学の教授を歴任した学者で、校注の仕事は1929年から1948年にかけておこなわれたそうです(『文史通義校注』の「出版説明」によります)。

葉氏の生前、この『文史通義校注』が出版されることはありませんでした。初めて出版されたのが、上述の1985年の中華書局版です。これには、中華書局編輯部の名義による1983年5月の「出版説明」がつけられており、編輯についても触れられていますが、この整理を担当したのが誰であるかは明記されておらず、具体的な作業についても、やや明瞭さを欠きます。この本を見ても、校注が葉瑛によるものなのか、それとも整理者の積極的な修正を経たものなのか、よく分からないところがのこります(原稿でも出てこないかぎり明らかにできないことですが、この本には整理者の手が相当に入っていて、もとの原稿に対して多くの内容を足してあるのではないか、という印象を持っています)。

この整理は、周振甫(1911-2000)という人物によるものとされており、私もそれは知っていたのですが、しばらく前に、国務院古籍整理出版規劃小組編『古籍整理出版情況簡報』(中華書局)の第134号(1985年1月)を見ていたところ、「即將出版的新書簡介(まもなく出版される新刊書の簡潔な紹介)」というコーナーにて、常振国というひとが『文史通義校注』の紹介をしていることに気づきました。そこに、「『文史通義校注』はまもなく中華書局から出版されるが、責任編輯は周振甫先生である」と明記されていました。常氏は、出版前の本の内容を見て、事情を把握して書いているはずです。

これで『文史通義校注』の整理者が周振甫氏であることの確認が取れた、という、ただそれだけの話なのですが、出版された書籍自体にはその明記がなく、一種の業界誌に、かえって出版前の速報として整理者の名前が出ていたことが、意外に感じられました。この『古籍整理出版情況簡報』という雑誌が、縁あって私の手もとに揃っているですが、めくっていると面白いので、少し紹介してみました。

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