漢字のカギ印について


今日の授業中に、写本につけられた印の話になって、『説文解字』にもある符号が載っている、と説明したところで、その字の音が思い出せず、しどろもどろになってしまいました。

授業後に調べてみると、それは「𠄌(居月切、jué)」という字でした。

以下、『説文解字注』第十二下、「亅(衢月切、jué)」部から、本文と注を転載して(『説文解字注』鳳凰出版社、p.1100)、備忘としておきたいと思います。

𠄌,鉤識也。鉤識者。
(段玉裁注:用鉤表識其處也。褚先生補「滑稽傳」,東方朔上書,「凡用三千奏牘。人主從上方讀之,止,輒乙其處,二月乃盡」。此非甲乙字,乃正𠄌字也。今人讀書有所鉤勒卽此。「内則」:「魚去乙」。鄭曰:「乙,魚體中害人者名也。今東海鰫魚有骨名乙,在目,狀如篆乙,食之鯁人,不可出」。此亦非甲乙字,乃狀如篆𠄌也。魚腸名乙耳,不當別有乙也。戉斧之字从𠄌爲聲。)
从反亅。讀若窡。
(段玉裁注:大徐作讀若捕鳥罬。『玉篇』引『說文』、居月切。大徐同。十五部。)

段玉裁によれば、『史記』滑稽列傳に見える「乙其處」は、正しくは「𠄌其處」(その場所にカギ印をつける)とあるべきで、『禮記』内則も正しくは「魚去𠄌」(魚の危険な骨を除去する)である、ということのようです。

『史記』のほうは、「ここまで読んだ」という記録として、この符号をつけたわけです。符号の名前(名詞)が、動詞としても使われたことが分かります。

漢字文献には、符号が少ないと言われますが、このような符号も古くからあった、と言いたかったのですが、記憶が曖昧で言えなかったので、ここに書いておくこととします。

(写真は早稲田大学蔵『説文解字注』より)

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