『素読のすすめ』


安達忠夫(1944年-)『素読のすすめ』(筑摩書房、2017年、ちくま学芸文庫)

もとは、『感性をきたえる素読のすすめ』(カナリア書房、2004年)。さらに遡ると、そのもとは、旧版『素読のすすめ』(講談社、1986年、講談社現代新書)だそうです。相当に古い書物です。

この本の内容も、江戸時代以来の「素読」の応用です。言うまでもなく、古い教育法です。

しかしながら、この『素読のすすめ』は、非常に今日的な意義の深い書物であると私は思うのです。「素読」で読み上げるのが、必ずしも四書五経である必要はありません。そうではなく、大切だと思えるようなテクストを、声に出して読み上げる。この実践を繰り返すことで、「ことば」を身体にしみ込ませる。この行為が、子どもであれ大人であれ、すべての学習者によい影響を及ぼす、ということではないでしょうか。少なくとも、私はその可能性を感じとりました。

著者の安達氏は、「漢文」の専門家ではありません。ドイツ文学・北欧文学および児童文学を専攻なさっているそうです。第2章「外国語早期教育と漢文素読」とか、第4章「ヨーロッパでの経験」、第5章「ユダヤ教の聖書朗詠」などの章があることからも、本書の内容が、大きな広がりを持っていることが知られることでしょう。むしろ、「漢文」の専門家でないかたの手で本書が書かれたことに、意義があるように思いました。

私自身も、中国音で『千字文』や『孝経』を読み上げることを提唱したりしてきたので、重なり合うところも大きいのはもちろんですが、しかし、本書『素読のすすめ』を通じて新たに学ぶことや、認識を改めるところが多くありました。古臭さをまったく感じさせません。何より、非常に学習意欲を強く刺激する本で、読んでいるうちに元気が出てきます。未読のかたに、ご一読をお勧めします。

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