『説文解字注』影印本、謎の改悪


段注経均楼本03b-28a
早稲田大学蔵、段注経均楼本

段玉裁(1735-1815)の『説文解字注』、嘉慶二十年(1815)の原刻本を手元に置くわけにもゆきませんので、皆さん、普段は影印本をお使いのことと思います。私も台湾芸文印書館版・上海古籍出版社版など、いくつかの影印本を愛用しています。

ここに困ったことがあります。影印本ごとに、内容が違う場合があるのです。影印本は、底本の写真によっているので、原則的に内容は違わないはずですが、修正を加えられた時にはそのかぎりではありません。

今日、仲間と段注の読書会をしたところ、第三篇下「殺」字(その第四の「古文」)の段注の内容に問題があることに気がつきました。ここに写真をお示ししたのは、早稲田大学が公開している原刻本の写真ですが、その第三篇下、二十八葉表の第八行目に「當云從殳從杀」とあります。ところが、影印本によっては、なぜかこの「云」が「去」になっているものがあるのです。

同じ『説文解字注』の影印本を見て議論しているつもりでも、話がかみ合わないので、そのことが発覚しました。

瑣細な事ではありますが、これはちょっとしたミステリーといえましょうか。一概に、台湾版はもとのままで、上海版が改悪してあるというわけでもありません。皆さんもぜひ、ご愛用の『説文解字注』にあたって確かめてみてください。

“『説文解字注』影印本、謎の改悪” への 2 件のフィードバック

  1. 学退さま、大作を読んだら、手元の説問解字注(台湾芸文、民四十四年十月初版、民四十六年十月再版、毛子水氏の後書きによって、それは傅斯年氏蔵経均楼版に因って影印されたもの)に調べてみて、あそこは『云』であり、『去』ではない。

    台湾芸文そのあと他のものに因って改めて影印したかどうかよく知らないが、上海古籍版は昔購入しました(ただ今中国の実家に残された)。多分、学退さまに提起された改悪の理由はこれです:僕の記憶は間違わない限り、上海古籍版には句読を加えられた。つまり、上海版は旧商務印書館の影印版に因って翻印したものだろう。その旧商務印書館の影印版の句読はいろいろな問題があり、同時の知識人の間にも不満が高いといわれます(上記毛子水氏の後書きによる。昔読んだときに僕も痛感しました)。多分その句読をする人はいくつかのところで無断改易を加えて、そのうちに『云』を『去』に改悪するだろうか、と僕は推測しました。

    (日本語をきちんと勉強したことがありませんので、以上の文章は変なものかもしれません。一助あるいは一笑になっていただければ幸いです。)

  2. 茨木さま、

    ご指摘ありがとうございます。上海古籍版でも、1981年に出版された第1版では「云」となっています。

    それぞれの影印本の底本については、あらためて調べてみたいと思います。ご教示、ありがとうございます。

    学退復

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